俳句(7/11掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田星人 選】

===

老鶯に蔵王の峰の高すぎる   東松島市矢本/紺野透光

【評】老鶯は夏の鶯のこと。名前に「老」とあるが実際はよく鳴いて衰えなどない。春の間、人里近くの平地にいた鶯たちは山地に移って営巣する。その声は辺りの山河の空気を震わせるほど張りがあり、老いの印象には程遠い。この句の夏鳥も驚くほど元気な声で鳴いている。もしかすると隣の山形県まで届きそうな声だ。しかし残念ながら蔵王の峰は高すぎる。

===

炎昼やパントマイムの鞄浮く   東松島市新東名/板垣美樹

【評】持っていた鞄が重くなったり軽くなったり、果ては空中に浮いて飛んでいこうとする。鞄が意思をもっているように見えるパフォーマンスだ。不思議なパントマイムの世界に酔いしれている作者。屋外での大道芸のショーだろうか。季語の炎昼がぴったりだ。

===

新じやがの確と応ふる指の先   石巻市広渕/鹿野勝幸

【評】新じゃがを収穫するタイミングや方法は長年培ったものがあるのだろう。中七下五の「確と応ふる指の先」はプロならではの表現。いい手応えなのだ。

===

川鰻焼く香が路地を塞ぎけり   石巻市相野谷/山崎正子

【評】路地を塞がれてしまったのに、困った感じは全くない。むしろこの路地に入ってから、歩く速度を緩めたくらいだ。川鰻焼く香を楽しんでいるのだ。

===

六月のプラットホームに銀河ゆき   石巻市小船越/芳賀正利

沖縄忌叔父の名もある宮城之塔   石巻市蛇田/高橋牛歩

頼りない疎らな松に蝉の声   多賀城市八幡/佐藤久嘉

雲の峰かすめて描く曲飛行   東松島市矢本/雫石昭一

梅雨晴や渡舟傾け聖火乗る   石巻市蛇田/石の森市朗

花あざみ婿取り娘は横座にて   石巻市開北/星ゆき

幼子の薄毛を揺らす団扇かな   仙台市青葉区/狩野好子

蛍火やぽつりぽつりと八十路坂   石巻市門脇/佐々木一夫

卯の花腐し電信音の話し中   石巻市中里/川下光子

繕ひの針の滑りや梅雨湿り   石巻市丸井戸/水上孝子

流れゆく草の速さにボート漕ぐ   石巻市吉野町/伊藤春夫

新緑の水面静かに櫓漕ぎ舟   石巻市元倉/小山英智

朝顔が起床ラッパの顔で咲き   東松島市矢本/菅原れい子

下水道の土掘る音や梅雨合間   石巻市南中里/中山文

麦秋やさやさや揺れて黄金打つ   石巻市桃生町/高橋冠

てきぱきと足場撤去の入梅かな   石巻市流留/大槻洋子