俳句(7/25掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田星人 選】

===

向日葵や空に何かを叫びをり   東松島市矢本/雫石昭一

【評】生命力の象徴のような向日葵。いつの世でも夏の真ん中に咲いている。この句、その向日葵が叫び声を上げたわけではない。この叫びは、自らの記憶の中から聞こえてきたもの。作者は幼い頃にグラマンの音を聞いている。その音の延長には、機銃掃射があり空爆があった。あの飛行音の記憶には向日葵が咲いていたのだろう。作者は夏になるとこのように、命からがら逃げた記憶を作品にしてくれる。頭が下がる。

===

風さわぐ朴の葉裏の白さかな   石巻市小船越/三浦ときわ

【評】夏の山道でこの場面に出合ったことがある。表を向いていた緑の朴の葉が風に吹かれて一瞬でみな裏返しになった。白い葉裏が現れて目前に明るい壁ができたようだった。下五の詠嘆でその驚きを表現。

===

トリアージてふ言葉の過る草むしり   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】トリアージは、緊急時に治療・処置する優先順位のこと。草むしりのさなかこの言葉がよぎった。土の匂いと疲労感があの日を思い出させたのだろう。

===

白靴の一段飛ばしに追ひ越され   石巻市桃生町/西條弘子

【評】軽やかで涼しげな白靴が追い越して行った。それもこんな急な石段を一段飛ばしで駆け上がって、もう姿も見えない。白靴の主を想像させて面白い。

===

俳諧の外れに生きて銀河かな   石巻市駅前北通り/小野正雄

教会の残響にゐる涼しさよ   東松島市新東名/板垣美樹

諦めぬ十年梅雨の浜掻かる   石巻市広渕/鹿野勝幸

鳥居なき社より海薄暑光   石巻市開北/星ゆき

晩学の行末ほのと夕溽暑   東松島市矢本/紺野透光

御所浦に土用鰻を釣る翁   石巻市吉野町/伊藤春夫

熱帯魚覗く児またも欠伸する   石巻市小船越/芳賀正利

能舞台ありあをあをと今年竹   石巻市相野谷/山崎正子

雨上り蟻に括れや艶めきて   石巻市中里/川下光子

透き通る京の葛切つるつると   仙台市青葉区/狩野好子

オムレツの焼かれて光る外は梅雨   石巻市蛇田/石の森市朗

老鶯のこだま届きぬ墓苑かな   石巻市南中里/中山文

朝凪や欠伸を誘ふ浪の音   石巻市門脇/佐々木一夫

助手席の窓から足の三尺寝   石巻市流留/大槻洋子

八朔の割く指先に香り立つ   東松島市矢本/菅原れい子

みどりごの視線の先や夏来たる   石巻市桃生町/佐藤国代