短歌(7/4掲載)

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【斉藤 梢 選】

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手術した娘に面会出来ざれば鳥になりたいガラス越しでも   石巻市桃生町/三浦八千代

【評】心情を詠む一首。コロナ禍ゆえに、面会することができない現状。手術後の「娘」の快復を願い、祈る日々が続く。病と闘っている子に会って、言葉をかけてやりたいという母の気持ち。その思いが募って下の句の「鳥になりたい」という、切実な言葉が心に生まれた。短歌という定型は、声に出して言えない深い思いを受け止める器でもある。詠むという行為が、作者の本当の言葉をしっかりと残している。「ガラス越しでも」会いたいと詠むこの一首が、病室の娘さんに届くことを願う。

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花の頭を喰はれても薔薇緋を咲(ひら)き虫くひあらはに光のなかに   石巻市開北/星ゆき

【評】薔薇の美しさに惹かれて詠むこともあるが、作者は「虫くひ」の花びらを露わにしている薔薇を詠む。その薔薇の姿に、何かを感じたのであろう。三句の「緋を咲き」という捉え方が印象的で、一枚の絵画を見ているようだ。この薔薇を見つめながら、作者は人としての生き方や生き様をも、深く思っているのかもしれない。緋の薔薇に差す「光」は恩恵のよう。

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夏の海なぜにきらめく青き色渚は白くさざ波打つに   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】こんなにも海はなぜに青いのか。打ち寄せる細波の白さを見つめながら、作者は佇む。「青」と「白」の鮮明が、この一首に満ちている。自然の中にある色を思い、海のきらめきに海の命を感じるひととき。

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遠い日に笑顔揺らしたブランコは風に乗りつつ流れてゆれて   石巻市門脇/佐々木一夫

【評】ブランコに子供が乗っているという懐かしい光景が、作者の眼裏にはある。「笑顔揺らした」の表現の明るさ。今は、風を乗せて揺れているブランコ。

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衣替え学生達は一斉に白の小波電車に揺れる   石巻市桃生町/高橋冠

浜茄子は人を寡黙にする花か越して十年弟の逝く   石巻市恵み野/木村譲

椿葉の朝日を受けて光りたりみどりは一日(ひとひ)のエールかと見ゆ   石巻市須江/須藤壽子

元気だと言われる度に自戒する思う以上に摩耗してると   東松島市赤井/佐々木スヅ子

塩害の跡地にやさしラベンダーいっとき想うボランティアの子等を   石巻市大門町/三條順子

津波にて改修されし川岸に父子(おやこ)で小鮒釣りし遠き日   石巻市駅前大通り/工藤久之

妻からの背筋伸ばせの叱責も老いの進化と受入れ生きる   石巻市不動町/新沼勝夫

わだかまり川に向かいて吐き出せば細波寄せてさっと引き去る   石巻市南中里/中山くに子

亡き姉の好みの海鞘を三個買い遺影の横に供えて偲ぶ   石巻市あゆみ野/日野信吾

ありのまま鏡に映る白髪増え若い頃には想像つかず   石巻市水押/佐藤洋子

ウォーキング初めて通るこの路の白詰草の出迎え嬉し   東松島市矢本/奥田和衛

見送りの出船風景胸騒ぐ若き日の海傘寿越えても   石巻市水押/阿部磨

洗濯物右に左に揺れるさま一番好きな我が家の景色   石巻市桃生町/千葉小夜子

「体調は?」携帯越しの君の声夜風は吹けど心に陽だまり   東松島市野蒜/山崎清美