コラム:アスリート

 このたびの東京2020オリンピック・パラリンピックをめぐって「アスリート」という言葉が日常的に使われています。「アスリート・ファースト」や「アスリートたちの本音」などなど。従来の「スポーツ選手」に代わるこのカタカナ語は人々にすんなり受け容れられているように思えます。

 その元となっているのが「アスレチック」という言葉ではないでしょうか。近年、健康ブームを受けて、「フィールド・アスレチック」などが全国各地にできました。自然の中でバーベキューやキャンプなども楽しめる野外運動施設です。この「アスレチック」は「運動競技の」を意味する英語の形容詞 athletic に由来し、athletics は名詞でスポーツ全般、健康保持のための運動を意味します。

 「アスリート」はこの英語の派生語で athlete と綴ります。高校時代、「陸上競技選手」という意味でこの言葉を覚えた記憶があります。種類を問わず、ある程度の頻度でスポーツを行っている人を「スポーツ選手」と言い表しますが、「アスリート」はスポーツをやっている人の中でもオリンピックなど非常に高いレベルを目指している人を指すことが多いようです。

 さて、この athlete の語源を探れば、ギリシャ語で" a person who competes for prize "「賞品(athlon)のために競う人」( Concise Oxford Dictionary )と記されています。

 古代ギリシャのオリンピックでは賞品にオリーブの冠が選ばれたとのこと。金目のものではない栄誉そのものを与えたからこそ、純粋な卓越性が保たれたとの記述を本で読んだことがあります。

 商業主義の論理に翻弄される現代のオリンピックのありよう。金銭を超えた卓越した価値を見失うことのないよう祈りたいものです。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)