俳句(8/22掲載)

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【石母田星人 選】

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八月や防空壕に敵機音   東松島市矢本/雫石昭一

【評】作者にとっての八月とは、防空壕の中に身をひそめた体験なのだという。「忘れてはならない」と教わった悲惨な戦争。その知識や実感が、年を重ねるたびにだんだん希薄になってくる。それでもこの句のように、体験者の記憶から絞りだされた真実を知ると「決して風化させてはならない」と改めて思う。

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津波疵いえて港の木槿かな   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】夏の暑い盛りに涼やかな花をたくさんつける木槿。新しくなった町を歩くとよくこの花に出合う。この花の色はさまざまだが、白で中心が赤い底紅種はハッとするほど美しい。復興なった港町は色彩を取り戻したように感じるが、やはり人工の色。木槿などの草木の息遣いがあってこそ本来の色になる気がする。

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新しき南部風鈴夕風に   仙台市青葉区/狩野好子

【評】南部風鈴の特徴は、高く澄んだ音色と響きの長さにある。夕の風を待って吊るした風鈴。初めての音色と余韻は辺りを涼やかに包み込んだに違いない。

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箱庭や星の欠けらのわが体   東松島市新東名/板垣美樹

【評】箱庭とは夏の子どもの遊びで、箱の中に木や橋を配して庭の風景を写し取ったもの。箱庭を巨人のように覗いた作者。中七以下はそこからの連想表現。

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日高見の朝日に匂ふ稲の花   石巻市小船越/芳賀正利

潮噴きのリアス海岸銀河濃し   石巻市相野谷/山崎正子

軍服の遺影を照らす盆の月   東松島市あおい/大江和子

新盆の兄の話の夜更まで   石巻市中里/鈴木登喜子

追憶はしのび足して夕端居   石巻市開北/星ゆき

我が影に支へられつつ草むしり   石巻市小船越/三浦ときわ

灼き尽す真昼の白き滑走路   東松島市矢本/紺野透光

物云はぬピクトグラムの夏祭   石巻市丸井戸/水上孝子

児の走るゴールの先や蝉時雨   石巻市門脇/佐々木一夫

郭公のタクトで今日も畑掘   東松島市矢本/菅原れい子

コロナ禍や右往左往の虫時雨   石巻市吉野町/伊藤春夫

コロナ禍と五輪のはざま秋立ちぬ   石巻市広渕/鹿野勝幸

ともかくも東京五輪燃ゆる夏   石巻市蛇田/高橋牛歩

廃校の海を近くに花茨   石巻市中里/川下光子

山の沢木の葉が動く蝦蟇動く   石巻市南中里/中山文

まくなぎを払い近道薄灯り   石巻市元倉/小山英智