短歌(8/29掲載)

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【斉藤 梢 選】

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風鈴に涼しさ求め手で揺らす今日の暑さもびっしょりの汗   石巻市水押/佐藤洋子

【評】詠むことは生きている証でもある。夏には夏の暮らしがあり、人は暑さを凌ぎながら日々を生きる。「びっしょりの汗」は実感をストレートに表現していて、それゆえの二句の「涼しさ求め」であろう。風鈴の揺れに涼しさを感じるという夏の歌は定番であるが、自らの手で風鈴を揺らすという詠みぶりは印象的だ。「手で揺らす」行為は涼への希求であり、作者の夏の生活の設えを思わせる。今年の夏を記録する一首であり、風鈴の音色も聞こえてきそう。

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田を巡り畔に屈みて話する稲との会話秋の約束   石巻市桃生町/高橋冠

【評】夏の田を巡って稲の様子を見る作者。田を守り稲を守る暮らしがここにある。日々の暑さも稲にとっては恵み。畔に屈む作者が見えるようで、結句の「秋の約束」には、順調に成長して欲しいという思いがこもる。こうした作者と稲との会話は稲刈りの時期まで続くだろう。稲を慈しみ、稲と共に生きることの現状を知る一首。四句を「われと稲との」にする方法も。

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果ててゆく今を知りても毛虫なほ幹を離さずグワァンとうねる   石巻市開北/星ゆき

【評】毛虫の命を見つめる作者。やがて果てるだろう毛虫が、懸命に生きようとしている姿を描写する「幹を離さず」。「グワァン」がうねる様子を伝えている。生と死についての思惟の時が作者にあって、この毛虫を詠んだのではないかと思う。

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卒塔婆の先に休むや赤とんぼ抜ける青さの無限を背負い   東松島市矢本/川崎淑子

【評】季節感のある作品。赤とんぼが休んでいる背景にあるのは「青さの無限」。「無限」という捉え方がいい。時間が止まっているようでもあり、絵画的だ。

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この地球(ほし)のふふめる青のひとつにてつゆ草の藍きっぱり深し   石巻市桃生町/佐藤国代

名も知らぬ五輪競技に魅せられてコロナの不安当分忘る   東松島市赤井/佐々木スヅ子

あつあつのとうもろこしに文の添う紙袋あり留守の垣根に   石巻市向陽町/後藤信子

月々に友へ絵手紙描く妻に今月の花さがしてやりぬ   石巻市駅前北通り/庄司邦生

子や孫や友らの分も短冊へ願い吊して一人七夕   石巻市羽黒町/松村千枝子

A氏より絵手紙届く半夏生傘寿過ぎたる顔の皺浮かぶ   東松島市矢本/高平但

萩咲きて盆の近きを思い立ち涼しき風の墓掃除なり   東松島市赤井/茄子川保弘

松島の賑いよそに浮く水母ただ心配は船の出入り   多賀城市八幡/佐藤久嘉

繁茂する庭木の枝葉切りとれば夕には涼風通り来たりぬ   石巻市駅前北通り/津田調作

たっぷりの時間ばかりにつつまれて細くとぼしき言語表現   石巻市恵み野/木村譲

北上川の流れは常とかはらねど秋立つけふの風ぞ幽(かそ)けき   石巻市三ツ股/浮津文好

受話器よりやさしく届く姪の声血を分けおれば互いに似たり   石巻市あゆみ野/日野信吾

病む姉の命いくばく病床の透けて流るる点滴見つむ   女川町/阿部重夫

「水分をとれよ」と仕事に行く孫に「気をつけてね」と言える幸せ   石巻市桃生町/三浦八千代