俳句(8/8掲載)

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【石母田星人 選】

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草刈つて刈つて大気の軽くなる   石巻市相野谷/山崎正子

【評】大気が軽くなったほどだから庭の草刈りではない。地域の大々的な草刈りなのだろう。草いきれを機械が一気に取り去って清々しい街並みが生まれた。

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洗ひ髪乾かす夜の遠汽笛   石巻市流留/大槻洋子

【評】平安時代は年に1回、江戸時代には月1~2回。この数字は女性の洗髪の頻度。毎日洗う現代人にとっては不思議だろうが、しっかりと油で固められた日本髪をほどいて洗うことは半日がかりの作業だったようだ。当時の水事情の中で髪を洗う喜びはいかほどだったろう。洗髪後の清涼感に男女の違いはないが、こんな背景を知ると季語「髪洗ふ」の主格には女性が似合うような気がする。掲句、エアコンを止めて窓を開けてみた。気持ちのいい風が心まで入ってきた。

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夕菅の野に風が降る鳥が降る   石巻市桃生町/西條弘子

【評】夕菅の黄色の花は夕方に開いて芳香を放つ。その夕菅の咲く高原が舞台。「降る」の繰り返しで縦方向の動きを主張。黄と黒で幻想的な表情も見せる。

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日盛や地球の地軸軋む音   石巻市小船越/芳賀正利

【評】自然と向き合っていると、理屈ではなく肌で詩を感じることがある。日盛の真ん中に聞こえたのは地軸の軋む音だった。ダイナミックな表現に好感。

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木立より木立につなぐ蝉時雨   東松島市矢本/雫石昭一

流木は炎のかたち浜万年青   東松島市新東名/板垣美樹

戦いを終えし球児や柿若葉   仙台市青葉区/狩野好子

夏雲や伏して号泣ユニフォーム   石巻市蛇田/石の森市朗

泉への道に案内の白ペンキ   東松島市矢本/紺野透光

梅漬けに勤しむひとの頬赤し   石巻市門脇/佐々木一夫

大空へ万歳のごと出穂期   石巻市広渕/鹿野勝幸

青葉潮沖に霧笛の響くなり   石巻市丸井戸/水上孝子

歯磨きの塩の指先青田風   石巻市中里/川下光子

七曜に六曜の閑かたつむり   石巻市開北/星ゆき

草の葉の色が跳び出す雨蛙   東松島市矢本/菅原れい子

うぐいすに声かけられて立ち話   石巻市吉野町/伊藤春夫

蛍狩り夢うつつなる闇深し   石巻市桃生町/高橋冠

サングラス鏡の中に微笑みて   石巻市蛇田/高橋牛歩

草の香を放つ茅の輪や昼の月   石巻市中里/上野空

母あらばほやにそえたりきゅうりもみ   石巻市渡波町/小林照子