コラム:無観客

 史上初めて延期された東京オリンピックが開幕。新型コロナウイルスの感染の再拡大によって、ほとんどの会場が無観客で行われるという異例な形での競技開始となりました。

" Japan's Olympics kick off amid a cascade of disasters "
 滝のように続く数々の不祥事の最中(さなか)、日本のオリンピックが開始(キックオフ)

 7月23日付のワシントン・ポスト紙はこのような記事を掲載しています。

" No spectators will be able to attend the Games..."
 競技は無観客で行われる模様...

 また、7月9日付のジャパン・タイムズ紙の書き出しは次のようなものです。

" Disappointment over decision to host Tokyo Olympics without spectators..."
 東京オリンピックを観客無しで行うという決定を巡って失望感が...

 どうやら「無観客」という漢字3文字に当たる英語はないようで、no spectators や without spectators といった間接的な表現で表しています。

 さて、「観客」を意味する spectator について掘り下げてみましょう。

 語源はラテン語で「見る」を表す spectare。「スペクタクル映画」spectacular film などでお馴染みですね。 spectacular は「壮観な」「大迫力の」などと訳されています。

 ところが同じ「観客」でも、音楽や演劇の場合は spectator とは言いません。audience です。これは皆さんよくご存知の「オーディオ」audio、ラテン語の「聴く」から派生した言葉で、音楽会では「聴衆」とも訳されています。つまり、「観客」が「見る」場合は spectator、「聴く」に重きが置かれる状況では audience を用いるのです。

 最後に、友人のピアニストの言葉を紹介します。欧米では音楽会のお客のことを public(パブリック=一般大衆)と呼ぶことも多いそうです。なるほどと思った次第。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)