コラム:フィジカル

 英語を学び始めた中学生の頃、教室の時間割表を眺めているうちに「これらの教科は英語で何と言うのだろう?」と、素朴な探究心から調べ始めました。

 「歴史」は history 、「地理」は geography というのは知っていましたが、「体育」は分からず、図書室にある和英辞典のお世話になりました。

 現れたのは physical education という長く難しい英語。 physical とは何だろうと、今度は英和辞典を引くと「物理、物理的な」そして「身体の」という訳が載っています。また、 education は「教育」と記されています。

 そうか、 physical education というのは「身体の教育」ということかと、まるで大発見でもした気分になったものです。

 「精選版・日本国語大辞典」によれば、「体育」という言葉は「明治期に西洋の教育制度の導入が図られた際に作られた訳語」。さらに、「教科名としては、1872年の学制発布時は『体術』であり、翌年に『体操科』と改称」とあります。「体育科」と呼ばれるようになったのは戦後のことのようです。

 オリンピックの様々な競技が連日メディアで報じられましたが、まさに極限まで physical training を行なってきた選手たちにとって「フィジカル」はごく普通の言葉でしょう。

 それと対をなすのが「メンタル」。これは mental という英語で、普通「精神の」と訳されています。いくら強靭(きょうじん)な身体を持っていても、メンタルな面で弱いと試合において勝者にはなれない、などとスポーツ界ではよく言われます。

 また、最近「マインド」(英語で mind、「精神」「心の働き」)という言葉がよく用いられますが、これは「メンタル」と同様、ラテン語の mens から派生した言葉です。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)