俳句(9/19掲載)

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【石母田星人 選】

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昇級のメダルを掲ぐ秋桜   仙台市青葉区/狩野好子

【評】子どもの習い事にも昇級試験や審査がある。上達の証しとして手にしたのは昇級のメダル。満面の笑みでそれを掲げる子。ここまでの努力を知っている家族も大喜び。秋桜のように笑顔があふれている。

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夏の月惑星すべて宙に浮く   石巻市小船越/芳賀正利

【評】月が昇るのを見ると、どうしてあんな巨大な衛星が浮くのだろうと考えてしまう。われわれの乗る太陽系第3惑星地球もずっと浮いている。その原理は理解できる。しかし改めて「惑星すべて宙に浮く」のように詠まれると、その突拍子もない内容に戸惑いを覚えてしまう。この句を包んでいるのは壮大なる宇宙感覚。海に昇る赤銅色の夏月が教えてくれたものだ。ちなみに今年の中秋の名月は21日。ぜひお月見を。

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目覚むれば龕灯返しの今日の秋   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】龕灯(がんどう)返しは、歌舞伎で用いる舞台用語で場面転換の際の大道具の仕掛けのこと。目覚めた朝に、夏から秋への季の移ろいを少々大げさに感得した作者。

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老松の湖に突き出す爽気かな   石巻市中里/川下光子

【評】湖に突き出す老松。珍しい風景だが見慣れていた。爽やかな朝に眺めると、松の絶妙な傾き加減に改めて気付いた。秋の涼気が気付かせてくれた。

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蝉しぐれじりじり空を広くせり   石巻市相野谷/山崎正子

紫蘇の実をしごきし妻の夜も匂ふ   東松島市矢本/紺野透光

うとうとと捲るページに虫の声   東松島市矢本/雫石昭一

震災忌胸ドンと突く揚げ花火   多賀城市八幡/佐藤久嘉

じやが芋や夜空焦がした戦闘機   石巻市門脇/佐々木一夫

傷痍しつまた戦地へと虫の闇   石巻市流留/大槻洋子

星月夜北上川は鎮まりぬ   石巻市吉野町/伊藤春夫

がまずみや昔仇討ありし村   石巻市蛇田/石の森市朗

落雁の音ひびき来る落暉かな   石巻市南中里/中山文

水底の空の青さや鬼やんま   東松島市矢本/菅原れい子

とうきびを供へ仏と長話   石巻市小船越/三浦ときわ

茄子田楽ふたり暮らしに馴れてをり   石巻市桃生町/西條弘子

鰯雲入港船を迎へをり   東松島市あおい/大江和子

三才は意志つまびらか青嵐   石巻市開北/星ゆき

長月に入りて一枚重ねけり   石巻市三ツ股/浮津文好

野草はや穂を出してをり秋の色   石巻市蛇田/高橋牛歩