【石母田星人 選】
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望月や十指開きて深呼吸 石巻市流留/大槻洋子
【評】今年の十五夜。薄い雲が少しかかった地域もあったが、宮城県内ではおおむね晴れ間が広がった。8年ぶりに満月と中秋の名月の日が重なり、真ん丸の月を眺めることができた。芒や萩を生けて月見団子や収穫物などを供えた作者も、あの大きな望月の出現に心洗われるような気がしたのだろう。中七から下五の「十指開きて深呼吸」は、そのすがすがしい気持ちが無意識にとらせた行為と読めた。体の隅々まで月光が染み込んでいくようだ。
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敬老日ふたりで覗く大鏡 東松島市矢本/雫石昭一
【評】子どもさんからだろうか。敬老の日に届いた贈り物。早速、それを身に着けた夫婦。代わる代わる鏡の前に立ち、最後は一緒に並んで納得の笑顔だ。
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老人の耳遠くなり秋のこゑ 石巻市駅前北通り/小野正雄
【評】秋のこゑは秋を感じさせる音。実際の音ではなく心にひびいてくる音もこう呼ばれる。秋のこゑは耳が遠くなるほど聞こえやすくなるのかもしれない。
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秘やかな路地の歩まひすがれ虫 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】盛んに鳴いていた虫。気温が下がる頃には、かすかな声に変わる。秋の終わりを感じさせてくれる声だ。中七「歩まひ」は古語で、「歩く様子」の意。
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満月の松島湾に舟を出す 東松島市矢本/紺野透光
秋風に背中押されて船出かな 石巻市門脇/佐々木一夫
国生みの神は風なり稲穂波 石巻市相野谷/山崎正子
刈り終へし稲田に空の下りてくる 石巻市桃生町/西條弘子
ペダル踏む稲穂の臭うあたりまで 石巻市中里/鈴木登喜子
山頂の巨大風車を月照らす 石巻市小船越/芳賀正利
ライオンの牡の遠吠え星月夜 多賀城市八幡/佐藤久嘉
涼新た十指に還る抜く力 石巻市開北/星ゆき
竜胆や硫黄の岩に低く添う 仙台市青葉区/狩野好子
お馴染に茸汁ある峠茶屋 石巻市吉野町/伊藤春夫
座卓にも椅子の二つや文化の日 石巻市中里/川下光子
蓮の実の飛んで過ぎゆく月日かな 石巻市蛇田/石の森市朗
藤袴家裏ひと隅ひとり占め 石巻市広渕/鹿野勝幸
天めざす面白山の花野かな 石巻市蛇田/高橋牛歩
目に見ゆるすべてを染めし秋夕焼 東松島市矢本/菅原れい子
羊雲フロントガラス埋め尽す 石巻市桃生町/高橋冠