俳句(10/17掲載)

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【石母田星人 選】

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望月や十指開きて深呼吸   石巻市流留/大槻洋子

【評】今年の十五夜。薄い雲が少しかかった地域もあったが、宮城県内ではおおむね晴れ間が広がった。8年ぶりに満月と中秋の名月の日が重なり、真ん丸の月を眺めることができた。芒や萩を生けて月見団子や収穫物などを供えた作者も、あの大きな望月の出現に心洗われるような気がしたのだろう。中七から下五の「十指開きて深呼吸」は、そのすがすがしい気持ちが無意識にとらせた行為と読めた。体の隅々まで月光が染み込んでいくようだ。

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敬老日ふたりで覗く大鏡   東松島市矢本/雫石昭一

【評】子どもさんからだろうか。敬老の日に届いた贈り物。早速、それを身に着けた夫婦。代わる代わる鏡の前に立ち、最後は一緒に並んで納得の笑顔だ。

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老人の耳遠くなり秋のこゑ   石巻市駅前北通り/小野正雄

【評】秋のこゑは秋を感じさせる音。実際の音ではなく心にひびいてくる音もこう呼ばれる。秋のこゑは耳が遠くなるほど聞こえやすくなるのかもしれない。

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秘やかな路地の歩まひすがれ虫   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】盛んに鳴いていた虫。気温が下がる頃には、かすかな声に変わる。秋の終わりを感じさせてくれる声だ。中七「歩まひ」は古語で、「歩く様子」の意。

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満月の松島湾に舟を出す   東松島市矢本/紺野透光

秋風に背中押されて船出かな   石巻市門脇/佐々木一夫

国生みの神は風なり稲穂波   石巻市相野谷/山崎正子

刈り終へし稲田に空の下りてくる   石巻市桃生町/西條弘子

ペダル踏む稲穂の臭うあたりまで   石巻市中里/鈴木登喜子

山頂の巨大風車を月照らす   石巻市小船越/芳賀正利

ライオンの牡の遠吠え星月夜   多賀城市八幡/佐藤久嘉

涼新た十指に還る抜く力   石巻市開北/星ゆき

竜胆や硫黄の岩に低く添う   仙台市青葉区/狩野好子

お馴染に茸汁ある峠茶屋   石巻市吉野町/伊藤春夫

座卓にも椅子の二つや文化の日   石巻市中里/川下光子

蓮の実の飛んで過ぎゆく月日かな   石巻市蛇田/石の森市朗

藤袴家裏ひと隅ひとり占め   石巻市広渕/鹿野勝幸

天めざす面白山の花野かな   石巻市蛇田/高橋牛歩

目に見ゆるすべてを染めし秋夕焼   東松島市矢本/菅原れい子

羊雲フロントガラス埋め尽す   石巻市桃生町/高橋冠