俳句(10/3掲載)

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【石母田星人 選】

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この老いに大波小波猫じやらし   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】猫じゃらしのふさふさとした穂を見かけた。子どもの頃はこの秋草でよく遊んだものだ。あれから幾多の試練を乗り越えて時が過ぎた。だがこの穂先の感触はあの時のまま。自然は何も変わってはいない。

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蕎麦の花星のつぶやき聞いてゐる   石巻市相野谷/山崎正子

【評】咲き誇る蕎麦の花には独特のにおいがある。蕎麦畑を遠くから見ると、真っ白い花のじゅうたんが広がっているようで感激するが、近づいてみると強いにおいに驚く。蕎麦の花は受粉のためにあらゆる虫をおびき寄せる。そのため少々強い主張が必要なのだ。掲句は、においを知らなければ「星々の語らいに耳を傾ける花」という読みになるのだろうが、「においにおびき寄せられる星々」こそ正解なのかもしれない。

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仲秋や行き合ひの空穏やかに   東松島市矢本/雫石昭一

【評】例えば「残暑」と「秋暑し」。同じことだが残暑はまだ夏に軸足が残り、秋暑しの軸足は既に秋にある。夏と秋の雲が一緒にいるのも自然なことだ。

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月鈴子時差登校の子らの列   仙台市青葉区/狩野好子

【評】コロナ禍の影響は児童生徒の学校生活にまで及んでいる。予期しない時間に擦れ違った登校の列。少々驚いた作者。道の辺には月鈴子(鈴虫)が鳴く。

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船出せと急かせる今朝の鱗雲   石巻市駅前北通り/津田調作

母の掌の大地がにぎる夜食喰む   石巻市開北/星ゆき

出戻りの娘が揺らす柿すだれ   東松島市矢本/紺野透光

蟋蟀や水の地球は壊れゆく   石巻市蛇田/石の森市朗

満月や机上のこけし肩を寄せ   石巻市小船越/芳賀正利

満月や猫の影さす田代島   石巻市蛇田/高橋牛歩

拍子木の仕舞ひの音や秋没日   石巻市丸井戸/水上孝子

俵積むことなき倉や懸巣鳴く   石巻市小船越/三浦ときわ

雨戸引く音して釣瓶落しかな   石巻市中里/川下光子

秋茜鎌を研げよとカラス鳴く   石巻市吉野町/伊藤春夫

ひらひらと連れはゐぬのか秋の蝶   石巻市南中里/中山文

近づけばおちよくるやうに石叩   石巻市広渕/鹿野勝幸

竹の春流れきらめく木の葉舟   石巻市元倉/小山英智

診察の医師の一言小鳥来る   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

ちちろ虫遅延告知の無人駅   石巻市流留/大槻洋子

秋晴や鉄路のひびき軽やかに   東松島市あおい/大江和子