【石母田星人 選】
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この老いに大波小波猫じやらし 多賀城市八幡/佐藤久嘉
【評】猫じゃらしのふさふさとした穂を見かけた。子どもの頃はこの秋草でよく遊んだものだ。あれから幾多の試練を乗り越えて時が過ぎた。だがこの穂先の感触はあの時のまま。自然は何も変わってはいない。
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蕎麦の花星のつぶやき聞いてゐる 石巻市相野谷/山崎正子
【評】咲き誇る蕎麦の花には独特のにおいがある。蕎麦畑を遠くから見ると、真っ白い花のじゅうたんが広がっているようで感激するが、近づいてみると強いにおいに驚く。蕎麦の花は受粉のためにあらゆる虫をおびき寄せる。そのため少々強い主張が必要なのだ。掲句は、においを知らなければ「星々の語らいに耳を傾ける花」という読みになるのだろうが、「においにおびき寄せられる星々」こそ正解なのかもしれない。
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仲秋や行き合ひの空穏やかに 東松島市矢本/雫石昭一
【評】例えば「残暑」と「秋暑し」。同じことだが残暑はまだ夏に軸足が残り、秋暑しの軸足は既に秋にある。夏と秋の雲が一緒にいるのも自然なことだ。
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月鈴子時差登校の子らの列 仙台市青葉区/狩野好子
【評】コロナ禍の影響は児童生徒の学校生活にまで及んでいる。予期しない時間に擦れ違った登校の列。少々驚いた作者。道の辺には月鈴子(鈴虫)が鳴く。
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船出せと急かせる今朝の鱗雲 石巻市駅前北通り/津田調作
母の掌の大地がにぎる夜食喰む 石巻市開北/星ゆき
出戻りの娘が揺らす柿すだれ 東松島市矢本/紺野透光
蟋蟀や水の地球は壊れゆく 石巻市蛇田/石の森市朗
満月や机上のこけし肩を寄せ 石巻市小船越/芳賀正利
満月や猫の影さす田代島 石巻市蛇田/高橋牛歩
拍子木の仕舞ひの音や秋没日 石巻市丸井戸/水上孝子
俵積むことなき倉や懸巣鳴く 石巻市小船越/三浦ときわ
雨戸引く音して釣瓶落しかな 石巻市中里/川下光子
秋茜鎌を研げよとカラス鳴く 石巻市吉野町/伊藤春夫
ひらひらと連れはゐぬのか秋の蝶 石巻市南中里/中山文
近づけばおちよくるやうに石叩 石巻市広渕/鹿野勝幸
竹の春流れきらめく木の葉舟 石巻市元倉/小山英智
診察の医師の一言小鳥来る 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
ちちろ虫遅延告知の無人駅 石巻市流留/大槻洋子
秋晴や鉄路のひびき軽やかに 東松島市あおい/大江和子