俳句(10/31掲載)

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【石母田星人 選】

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日高見の山田の渡し水の秋   石巻市蛇田/高橋牛歩

【評】下五が季語「秋の水」ならば秋の澄み渡った水のことをさすのだが、この句は「水の秋」。これは水辺の秋の風情全般を思わせる言葉だ。季語の効果もあって、歴史ある渡し場の風景が見えてくるようだ。

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一木の百種の色の照葉かな   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】日光を受けて紅葉が輝くさまを照葉という。紅葉は日当たりがよいほど早く鮮やかに色を変える。同じ木の葉っぱでも、日当たりの加減で紅葉に遅速が生じる。この句の紅葉は始まったばかりなのだろう。たっぷりと日を浴びた葉は既に真っ赤になり、重なり合い陰になった部分にはまだ緑が残る。この一木には多くの色彩がちりばめられている。真っ盛りの紅葉も美しいが色づき始めだからこそ見いだせる美もある。

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空と海つなぐ半島雁渡る   石巻市相野谷/山崎正子

【評】上五中七は年中見える牡鹿半島。その空間に雁の列を入れるといつもの風景が一変。ピリッとした晩秋の空気に包まれる。季語に寄り掛かった一句。

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四大観めぐる松島暮れ易し   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】松島四大観とは大高森の壮観、富山の麗観、多聞山の偉観、扇谷の幽観のこと。それぞれの印象を実感するには紅葉の今が最適だ。だが日暮れは早い。

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海神へ蘆の穂絮の飛ぶ日なり   石巻市桃生町/西條弘子

晩秋の池赤々と染りけり   東松島市矢本/雫石昭一

どこみてもかぜとわれなり大花野   石巻市小船越/芳賀正利

芋の子や戦時の畑の鍬の先   石巻市駅前北通り/津田調作

一束は雀にあたへ稲を刈る   石巻市蛇田/石の森市朗

真夜中の匂い巻きこみ秋の雷   石巻市流留/大槻洋子

浜菊や廃舟混じり船溜   東松島市矢本/紺野透光

たどり来し旅程を見るや夜長し   仙台市青葉区/狩野好子

夢ゆらしかすかに響く霧笛かな   石巻市門脇/佐々木一夫

四阿に憩ふ老人紅葉晴   石巻市吉野町/伊藤春夫

マスク踏む一瞬空蝉踏むごとし   石巻市開北/星ゆき

二人して薬確かむ秋深し   石巻市広渕/鹿野勝幸

コンバインリズムに合わせ役終える   東松島市矢本/奥田和衛

あるじなき机に秋の灯をともす   東松島市矢本/菅原れい子

妹逝きて姿となりぬ曼珠沙華   石巻市中里/鈴木きえ

花茗荷忘れたふりも許されよ   石巻市渡波町/小林照子