俳句(11/14掲載)

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【石母田星人 選】

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山もみぢ夕日へしばし喝采す   石巻市小船越/三浦ときわ

【評】夕日を浴びる山紅葉は殊の外美しい。そんな素直な印象を端的に示している。この句で光るのは、「喝采す」の表現。声を上げて感心したのは作者なのだが、夕日に染まる山紅葉自体が歓喜の叫びを上げているようにも読める。紅葉の声が聞こえてくる。

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木の実時コツンと歌ふ茂吉の碑   石巻市相野谷/山崎正子

【評】日和山公園には文学碑が数多く立つ。茂吉の<わたつみに北上川の入るさまのゆたけきを見てわが飽かなくに>の歌碑もそのひとつ。悠久の大河が海に流れ込むダイナミックな眺望は、彼の心をしっかりと捉えたようだ。この句、碑のそばに立ち茂吉の短歌の音調に浸っていた作者。そこにコツンと木の実の音。その響きが歌の調べのように聞こえたのだ。

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紅葉の旅のカタログ広げては   石巻市桃生町/西條弘子

【評】感染者の減少で、観光地にはかつての光景が戻りつつある。旅行が趣味だった人にとっては我慢の歳月が続いていた。「広げては」に解放感が見える。

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仙山線車輪空転散紅葉   石巻市蛇田/高橋牛歩

【評】落ち葉掃き列車の出番は晩秋の風物詩。目を奪われた紅葉も、この時季には車輪空転を引き起こす原因に。その厄介者のイメージを重ねた漢字で表現。

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ほのかなる山の匂ひや紅葉狩   石巻市駅前北通り/小野正雄

走り根の交わり続く秋時雨   仙台市青葉区/狩野好子

三陸の五戸の集落雁渡る   石巻市蛇田/石の森市朗

あんぱんの臍に黒胡麻鳥渡る   石巻市小船越/芳賀正利

風の音流るるままの枯野かな   東松島市矢本/雫石昭一

慈しむ光放ちて末枯るる   石巻市丸井戸/水上孝子

火山性微動のお触れ天高し   多賀城市八幡/佐藤久嘉

緩やかな羽音かすかに鳥渡る   石巻市流留/大槻洋子

飯食はぬ姉 新米の湯気二膳   石巻市開北/星ゆき

落ちそうで落ちない石や寺小春   東松島市矢本/紺野透光

震災で人住まぬ家虫時雨   石巻市三ツ股/浮津文好

山道は紅葉色増すお牧山   石巻市吉野町/伊藤春夫

朗読の直立不動赤とんぼ   石巻市中里/川下光子

たっぷりと日の香の布団小春かな   石巻市広渕/鹿野勝幸

集ふこと少し許され新酒かな   東松島市あおい/大江和子

長靴が先を急がせる栗拾い   石巻市駅前北通り/津田調作