俳句(11/28掲載)

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【石母田星人 選】

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黄昏が染み入るやうに菊の酒   石巻市門脇/佐々木一夫

【評】菊の酒は重陽の節句(旧暦9月9日)の祝い酒。菊の花を浸した酒を飲んで災厄をはらい、長寿を願う。どんな酒でもうまいが、この菊酒はこの上なくうまかったのだ。「黄昏が染み入るやうに」の大きな比喩がいい。作者を囲むたくさんの笑顔が見える。

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穭田の闇に佇ちゐる捨案山子   石巻市小船越/芳賀正利

【評】役目を終えても片付けられない捨案山子は、少なくとも倒されているものだ。この句ではそのまま放っておかれたようにみえる。捨案山子にはあわれなイメージがつきまとうがこの案山子にはそれが無い。痩せ細っても、眼光鋭く闇に佇(た)ち、闘い続ける気骨を見せているようだ。上五「穭田(ひつじだ)」も晩秋の季語だが、この句の場合は捨案山子が季語となる。

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冬雁の空へ漬物樽を干す   石巻市相野谷/山崎正子

【評】雁たちは湖沼などに落ち着いて冬を過ごす。越冬地がそばにあると、雁の群れを見る機会が多く、親近感が増す。その思いを遠近の構成で巧みに表現。

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たよりなき記憶の力年の暮   東松島市矢本/雫石昭一

【評】雪の便りが届いて一段と寒くなると、年末の気ぜわしさに襲われる。落ち着かないと、何か忘れている気になる。そんな気分を乗せた一句と読んだ。

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菊の花浮べて喜寿の祝膳   石巻市吉野町/伊藤春夫

枯尾花仮設撤去の跡地かな   石巻市元倉/小山英智

遠方の友訪ね来る神の留守   石巻市新館/高橋豊

パンドラの匣開けてみる神の留守   石巻市蛇田/高橋牛歩

冬椿海の伝説青みたり   東松島市矢本/紺野透光

山の嶺に風車の回る小春かな   石巻市蛇田/石の森市朗

立冬や赤児ほほえむ待合室   東松島市あおい/大江和子

おさがりの青の手袋朝散歩   仙台市青葉区/狩野好子

どこまでや北上川の花すすき   多賀城市八幡/佐藤久嘉

錦木の光と陰やあはれなり   石巻市丸井戸/水上孝子

予報士の時雨もやうや街灯り   石巻市中里/川下光子

日和得て円通院の散紅葉   石巻市広渕/鹿野勝幸

秋麗や一人影踏み散歩道   石巻市流留/大槻洋子

昼月へかがやく投網秋の蜘蛛   石巻市開北/星ゆき

存在感いっきに増して金木犀   東松島市矢本/菅原れい子

秋耕や牛と歩みし戦時中   東松島市矢本/奥田和衛