俳句(12/12掲載)

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【石母田星人 選】

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冬満月赤い蝋燭灯すなり   石巻市蛇田/高橋牛歩

【評】季語を通して四季と向き合う俳句は、大自然への語りかけが基本。それでもたまに大自然の方から語りかけてくれることがある。天文現象もその一つ。この句は先日の部分月食の景。部分月食でありながら9割以上が欠けたので、皆既月食と同じように赤色の暗い月面を眺めることができた。あの月の色を作者は「赤い蝋燭灯す」と感受した。観察眼の所産。

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嘶きに嘶き返す霧の中   石巻市小船越/芳賀正利

【評】嘶(いなな)きと書けば普通は馬の省略がある。ここも霧の牧場の景となる。だがこの句には現実の風景だけでは収まりきれない力がある。嘶くのはただの馬ではないのかもしれない。例えば大陸へ渡った軍馬とか。時空をも往還できそうな霧。季語の象徴力は大きい。

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二三枚残る枯葉や鳶の笛   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】大樹なのだろう。ほかがすっかり落ちても、まだ残っている枯葉が見える。それらもやがて散る。樹の向こうに鳶を配して大きな遠近の構図で描いた。

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バスを待つ小春日和の列ゆるむ   石巻市中里/川下光子

【評】小春のぬくもりは真冬に向かう前の贈り物のようだ。そんな夢のような至福の時間にバスを待つ。ほっと一息つく日差しを浴びたら当然、列はゆるむ。

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蘆枯れて祈りの川となりにけり   石巻市相野谷/山崎正子

オーボエの音色響きて冬の川   仙台市青葉区/狩野好子

寒凪の落日まぶし母港かな   石巻市門脇/佐々木一夫

気嵐を分けて汽笛の響きをり   東松島市矢本/雫石昭一

青空へ紅葉の主張こだまする   東松島市矢本/菅原れい子

島隠すほどの時雨となる夕べ   石巻市桃生町/西條弘子

とんぼうの温めし石をゆづらるる   石巻市小船越/三浦ときわ

踏み鳴らす舞台の響き冬の空   石巻市丸井戸/水上孝子

ちぐはぐな話に終る日向ぼこ   石巻市吉野町/伊藤春夫

竹馬の徒競争あり島分校   東松島市矢本/紺野透光

赤い月見えるみえると電話口   石巻市流留/大槻洋子

立冬や畑の扉重くなり   東松島市矢本/奥田和衛

無花果や時代おくれの貌に喰む   石巻市開北/星ゆき

誘導の旗振る勤労感謝の日   石巻市広渕/鹿野勝幸

釣り人の中に園児も鯊日和   多賀城市八幡/佐藤久嘉

襟を立て背に木枯しの家路かな   石巻市元倉/小山英智