【石母田星人 選】
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冬満月赤い蝋燭灯すなり 石巻市蛇田/高橋牛歩
【評】季語を通して四季と向き合う俳句は、大自然への語りかけが基本。それでもたまに大自然の方から語りかけてくれることがある。天文現象もその一つ。この句は先日の部分月食の景。部分月食でありながら9割以上が欠けたので、皆既月食と同じように赤色の暗い月面を眺めることができた。あの月の色を作者は「赤い蝋燭灯す」と感受した。観察眼の所産。
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嘶きに嘶き返す霧の中 石巻市小船越/芳賀正利
【評】嘶(いなな)きと書けば普通は馬の省略がある。ここも霧の牧場の景となる。だがこの句には現実の風景だけでは収まりきれない力がある。嘶くのはただの馬ではないのかもしれない。例えば大陸へ渡った軍馬とか。時空をも往還できそうな霧。季語の象徴力は大きい。
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二三枚残る枯葉や鳶の笛 石巻市蛇田/石の森市朗
【評】大樹なのだろう。ほかがすっかり落ちても、まだ残っている枯葉が見える。それらもやがて散る。樹の向こうに鳶を配して大きな遠近の構図で描いた。
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バスを待つ小春日和の列ゆるむ 石巻市中里/川下光子
【評】小春のぬくもりは真冬に向かう前の贈り物のようだ。そんな夢のような至福の時間にバスを待つ。ほっと一息つく日差しを浴びたら当然、列はゆるむ。
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蘆枯れて祈りの川となりにけり 石巻市相野谷/山崎正子
オーボエの音色響きて冬の川 仙台市青葉区/狩野好子
寒凪の落日まぶし母港かな 石巻市門脇/佐々木一夫
気嵐を分けて汽笛の響きをり 東松島市矢本/雫石昭一
青空へ紅葉の主張こだまする 東松島市矢本/菅原れい子
島隠すほどの時雨となる夕べ 石巻市桃生町/西條弘子
とんぼうの温めし石をゆづらるる 石巻市小船越/三浦ときわ
踏み鳴らす舞台の響き冬の空 石巻市丸井戸/水上孝子
ちぐはぐな話に終る日向ぼこ 石巻市吉野町/伊藤春夫
竹馬の徒競争あり島分校 東松島市矢本/紺野透光
赤い月見えるみえると電話口 石巻市流留/大槻洋子
立冬や畑の扉重くなり 東松島市矢本/奥田和衛
無花果や時代おくれの貌に喰む 石巻市開北/星ゆき
誘導の旗振る勤労感謝の日 石巻市広渕/鹿野勝幸
釣り人の中に園児も鯊日和 多賀城市八幡/佐藤久嘉
襟を立て背に木枯しの家路かな 石巻市元倉/小山英智