俳句(12/26掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田星人 選】

===

震災の癒えてようやく障子貼り   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】決して忘れることはできない。だが気持ちの整理がついたのだろう。冬支度の障子貼りは大仕事。真新しい障子あかりに包まれて達成感に浸っている。

===

山茶花や少女の頬のほのかなり   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】散ってもまたすぐに咲き始める山茶花。よく見ると多くのつぼみが出番を待っている。中七以下は山茶花の花ではなく、つぼみのイメージを重ねたい。

===

小春日や屋根職人の声響く   石巻市小船越/芳賀正利

【評】作者は室内、職人は小春の屋根にいる構図。いつもは何も聞こえない頭上からの声。聞いた途端に驚きもあったろうが、即物的な叙法で淡々と詠む。

===

冬ざるる石に仏師の鑿の跡   石巻市桃生町/西條弘子

【評】見渡す限り冬景色。露岩に彫られた磨崖仏。風化も進んでいるが、躍動感ある鑿跡を見いだした。仏師の息遣いを感じた作者は自然に手を合わせる。

===

凍星や眼の誕生に驚きぬ   石巻市駅前北通り/小野正雄

【評】師走の夕空はにぎやかだった。南西の空には金星、土星、木星が等間隔に並んだ。「眼」とはこの3惑星の姿だろう。想定を超えた輝きだったのだ。

===

水神へ深会釈して海鼠舟   石巻市相野谷/山崎正子

開戦を繰り返すなと冬怒濤   石巻市広渕/鹿野勝幸

小さき嘘楽しむ妻の木の葉髪   東松島市矢本/紺野透光

熟練の牡蠣剥き早し左利き   石巻市吉野町/伊藤春夫

木枯や鳴るはずの無き踏切音   石巻市小船越/三浦ときわ

軽トラの荷台に転ぶ蕪かな   東松島市矢本/雫石昭一

着ぶくれの昭和どっかり胡坐かな   石巻市開北/星ゆき

慰霊碑の名前なぞりし小六月   石巻市新館/高橋豊

白髪に手を差し伸べて冬来たり   石巻市門脇/佐々木一夫

久々のインターチェンジ草紅葉   石巻市流留/大槻洋子

一行の日記にはさむ宮城野萩   東松島市矢本/菅原れい子

冬曙犬の鳴き声渇きけり   仙台市青葉区/狩野好子

煮凝りに話弾むや海の色   石巻市駅前北通り/津田調作

相棒も家を出た頃小夜時雨   石巻市中里/川下光子

木枯や手術に臨み鯉となる   石巻市三ツ股/浮津文好

ラジオ連れ老の散歩や冬紅葉   東松島市矢本/川崎淑子