【石母田星人 選】
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戦なき七十七年初御空 石巻市広渕/鹿野勝幸
【評】元日の空に向かって改めて誓うのは、戦争のない世界。戦後生まれが8割となった今、折に触れて戦争体験を詠んでくれる作者には頭が下がる。今年は「戦なき七十七年」。平和の尊さを再認識したい。
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再建の大鳥居より初日の出 石巻市吉野町/伊藤春夫
【評】日和山の大鳥居。昨年末、この新しい鳥居を詠んだ句が幾つか寄せられた。紹介はできなかったがどの句も、盛大なくぐり初めの光景に重ねて、再建の喜びやあるべきものが無かった寂しさを詠んでいた。この鳥居は心のよりどころなのだと改めて教わった。新たな鳥居になって初めての初日の出。荘厳な輝きに新年の始まりを実感した作者。あるべきものがあるという幸せと喜びをかみしめながら。
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綿虫や道に迷いて尋ね来し 東松島市矢本/雫石昭一
【評】青白く光りながら、緩やかに浮遊する綿虫。作者の差し出した指に一休み。その後またふわふわ。そんな綿虫との出合いを表現。映像が見えるようだ。
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チェンソーの音の明るき枯木山 石巻市桃生町/西條弘子
【評】落葉樹が全て葉を落とした枯木山。夏と違い山全体が開けっぴろげの状態。聞こえるのは伐採音。上句にも下五にもかかるような「明るき」が巧み。
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初御空交響曲の始まりぬ 仙台市青葉区/狩野好子
良き事の拾ひ読みして年新た 石巻市丸井戸/水上孝子
白鳥の声掛け合うて山越ゆる 石巻市相野谷/山崎正子
断崖の鷹海峡の風となる 石巻市蛇田/石の森市朗
元日や満艦飾の船溜り 石巻市蛇田/高橋牛歩
雪道に松毬ひとつ何処から 石巻市小船越/芳賀正利
カーブミラー冬夕焼を独り占め 石巻市小船越/三浦ときわ
福寿草津波に荒れし庭に咲き 石巻市三ツ股/浮津文好
時雨虹帰郷打診を断りて 石巻市流留/大槻洋子
洗顔の朝の動線冬ぬくし 石巻市中里/川下光子
同じ話ききに二世代聖菓かな 石巻市開北/星ゆき
討ち入りにやはり初雪月明り 多賀城市八幡/佐藤久嘉
冬うらら舟をこぎこぎ読書かな 石巻市門脇/佐々木一夫
この年も両手に余る落葉掃き 石巻市駅前北通り/津田調作
老いたとて心前むき年新た 東松島市あおい/大江和子
新雪の葉音かすかに八つ手花 石巻市丸井戸/佐々木あい子