短歌(1/9掲載)

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【斉藤 梢 選】

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紫陽花は姿のままに乾びゆき花冠に紅の霜まとひけり   石巻市開北/星ゆき

【評】冬の花を見ると、命の勁(つよ)さを感じる。寒さの中で咲く姿に、花そのものが持ち得ている個性の際立ちを感じる。作者は、枯れて乾びた紫陽花を詠む。散らずに「姿のままに」ある花に、梅雨の時期の紫陽花の彩りを思うと、色褪せて乾びているその様子は何かを語っているかのようだ。下の句の「紅」は作品に色を与えていて、紫陽花の花が生き返ったような不思議な光景を想像させる。「紅の霜」と表現した作者の心が捉えた美しさ。ささやかな自然の営みを言葉にした歌。

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夜回りの拍子木の音冴えわたり月皓皓とわれらを照らす   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】寒い夜にひびく拍子木をうつ音。その音の冴えを感じる作者。静かな寒夜であれば、その闇を切るような音に身が引き締まるよう。そして、月が人々の暮らしを見守るかのようにあることを思わせる。「皓皓と」という表現が秀。白く光る冬の月の「皓皓と」だろう。版画で表すことができるような白と黒の世界。
自身だけではなく「われらを」としたところがいい。

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それぞれにどんな願いを秘めいるか初日の出待つ野蒜の浜に   東松島市矢本/高平但

【評】新年を迎えるにあたっての心情。生きているからこそ、生きゆくからこその未来への願い。「野蒜の浜」で初日を待つ「それぞれ」の人のことを思いつつ、作者はその場所を思う。心のこもる秘めた願い。

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此の節は記憶の絡みを詠むわたし心の中にも物語あり   石巻市大門町/三條順子

【評】何を詠むかを詠むこの一首は独特。「記憶の絡み」を詠みつつ、もう一度その思い出を確かめているのだろう。作者にとっては、ひとつひとつが唯一無二の「物語」。そして、詠むことは残すことでもある。

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網掛けて大事にしてた南天を朝日が照らし赤い実光る   石巻市水押/佐藤洋子

田の道にうっすら積もる初雪の白鳥の足跡幾何学模様   石巻市桃生町/高橋冠

弦月の二重に見ゆる老いの目や暗き夜空が無限に見えて   石巻市門脇/佐々木一夫

どのくらい遠くの海にいる船か操業中とわずか一行   利府町しらかし台/白木樺太

柄の長き剪定鋏(はさみ)をもちて海棠の高々立てる徒長枝を剪る   石巻市駅前北通り/庄司邦生

初雪を踏めば付きくる杖の影ブーツの底に心寄せ行く   石巻市南中里/中山くに子

短歌(うた)ノート開けば浮かぶ海の彩(いろ)懐かしさ書けばペンは止まらず   石巻市駅前北通り/津田調作

なき姉の面輪しみじみ浮かび来てその姉のこえ空に聞ゆる   石巻市桃生町/三浦多喜夫

かの昔冬の最中の自在鉤大鍋吊し湯気立ついろり   石巻市水押/阿部磨

いとこから届く荷物にかつて住みし地方紙在りて懐しく読む   東松島市赤井/佐々木スヅ子

霜月の電柱に登り仕事する我々のため頭の下がりぬ   石巻市桃生町/千葉小夜子

離農すれば米は買う物貰う物立場変われば安さ喜ぶ   石巻市桃生町/佐藤俊幸

思う度遠くなりゆく故郷はもう雪だろう青森の果て   東松島市矢本/畑中勝治

わが為に赤飯炊いて仏前に両手合わせて全快告ぐる   石巻市中央/千葉とみ子