俳句(2/13掲載)

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【石母田星人 選】

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正月や爪先長き男靴   石巻市中里/川下光子

【評】靴の形を語っているだけのようだが、季語の正月から靴の主は賀客と分かる。客を迎えた作者には見慣れない形状の靴だったのだろう。「爪先長き」の表現には客の性格まで描かれているようで面白い。

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凍蝶や黄の鮮やかに地に生えて   石巻市門脇/佐々木一夫

【評】地面に休んでいた黄の冬蝶。その存在を下五「地に生えて」の表現でうまく捉えた。色の無い寒中だからこそ鮮やかさが際立つ。成虫で越冬するタテハチョウ種だろう。寒さで凍ったように動けなくなっているが、死んでしまったわけではない。日が当たると羽を呼吸するように開閉して再び舞い始める。厳しい冬を休み休みに舞う蝶の姿はなんとも哀れだが、その鮮やかな色彩は春への希望を感じさせる。

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雑煮椀大きく赤し卒寿かな   石巻市小船越/三浦ときわ

【評】代々に受け継がれてきた雑煮椀。深さがある大きめの赤だ。いつもこの椀の手触りで新年を祝う。雑煮も代々伝わる味。卒寿の今年はひときわ豪華だ。

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来ればすぐ庭の雪かく子と孫と   石巻市広渕/鹿野勝幸

【評】怠けていた訳ではないが家の周囲は雪の山。帰省した子供たちはあいさつもそこそこに雪をかく。一気に片付いていく清々しさ。幸せのひとときだ。

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気嵐や銅鑼の音高く出港す   石巻市吉野町/伊藤春夫

鳥帰る雲緩やかに流れをり   東松島市矢本/雫石昭一

凍て空に津波警報海の闇   東松島市あおい/大江和子

獅子頭北斗の星を探しをり   石巻市蛇田/石の森市朗

一山を響かせてゐる斧始め   石巻市相野谷/山崎正子

凧この大空を独り占め   石巻市小船越/芳賀正利

霜の朝機影は金の尾を引きて   石巻市流留/大槻洋子

銀世界はらり一羽の寒鴉   石巻市丸井戸/水上孝子

仙石線きょうはおしまい寒の月   多賀城市八幡/佐藤久嘉

雪晴れや地蔵の頭巾新しく   仙台市青葉区/狩野好子

ほつほつと札所の寺の冬桜   石巻市桃生町/西條弘子

ごつごつの松の小枝や小正月   石巻市丸井戸/佐々木あい子

かぼちゃ一つ冬至くるまで転がして   東松島市矢本/菅原れい子

冬の峰きょう七十路の背骨とす   石巻市開北/星ゆき

春浅しワクチン接種三回目   石巻市蛇田/高橋牛歩

新春やドナウのワルツ高らかに   石巻市駅前北通り/工藤久之