俳句(3/13掲載)

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【石母田星人 選】

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鎮魂のいしぶみ洗ふ春の雪   東松島市あおい/大江和子

【評】鎮魂の碑を洗っている作者。そのさなか春の雪が舞い始めた。碑に触れるとすぐに融ける春の雪。作者のさまざまな思いと一緒に静かに融けてゆく。

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山々の谺(こだま)を奪ふ春の雪   石巻市相野谷/山崎正子

【評】東日本大震災では多くの物が壊された。あの破壊の力は、俳句の季語の持つイメージにも及んだ。「春の雪」と聞いて、大半の人が思い浮かべるのは、春らしい明るさの中のはかなさや、心に温かさを運ぶような雪の印象だろう。だが、石巻かほく俳壇に届く「春の雪」の句の多くは、高台に逃げたあの時を思い出す雪というイメージで使われている。この句もあの日の景だ。中七「奪ふ」には、失くした多くのものに寄せる思いが、殊の外強く込められている気がする。

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鳥帰るフレコンバッグ動かざる   石巻市小船越/三浦ときわ

【評】数カ月すんだ水辺を後にして旅立つ鳥たち。群れが去り存在感を増したのは除染廃棄物のフレコンバッグ。こちらは仮置き場から旅立つそぶりもない。

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幼き日の空襲まざとウクライナ   石巻市広渕/鹿野勝幸

【評】「今すぐに戦争をやめろ」とこの無季の句は叫ぶ。町が火の海になった空襲を体験している作者。戦争の映像を見るとつらい気持ちになるのだろう。

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開通式幅いつぱいに春の風   東松島市矢本/雫石昭一

川端の鳥語にぎやか青き踏む   仙台市青葉区/狩野好子

春の雪遠き記憶の舞ふやうに   石巻市流留/大槻洋子

昼の星瞬く如く石鹸玉   石巻市小船越/芳賀正利

枯木星ボレロの曲に包まれり   石巻市丸井戸/水上孝子

凍て土にアテルイ京へ拳あげ   多賀城市八幡/佐藤久嘉

虎落笛若き日の海連れて来し   石巻市駅前北通り/津田調作

枯れゆくも緋の胎動や冬の薔薇   石巻市開北/星ゆき

新若布有りと張り紙太字かな   石巻市二子/北みなみ

春浅し梢の鴉沖を見て   石巻市蛇田/石の森市朗

傷舐めて母は万能梅の花   石巻市吉野町/伊藤春夫

寒紅や鈴のやうなる声のして   石巻市中里/川下光子

靴音の澄むだけ澄めり余寒なほ   石巻市桃生町/西條弘子

春の風長寿の父の野辺送り   石巻市元倉/小山英智

少しずつ春が起き出すプランター   東松島市矢本/菅原れい子

臥す春の夢はじゃんけんあいこでしょ   石巻市蛇田/高橋牛歩