【斉藤 梢 選】
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停戦を求める声は届かない何もできない犠牲の数に 石巻市水押/佐藤洋子
【評】ロシアによるウクライナへの侵攻が始まったのは、二月二十四日。この時からの、戦争の現況を知らせる報道には胸が痛む。テレビ画面には凄惨な状況が映し出され、アナウンサーは「死傷」、「爆撃」、「遺体」という言葉を繰り返す。作者の日常の中に入り込むのは戦争の事実。心の声としての「届かない何もできない」に読者も心を寄せる。表現せずにはいられなかった強い怒りや、祈りや、無念が一首に屹立していて、詠むことは心の中の声を言葉にすることなのだと思わせる。あらためて、命の尊さを思い平和を願う。
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赤子の手少しさわって満たされてなんでも我慢できそうになる 石巻市大門/三條順子
【評】やわらかく小さい赤子の手は命そのもの。「少しさわって満たされて」には実感があふれている。少し触っただけで心が満たされる幸を意識することで、作者の生活は明るくなり、気持ちも前向きになることだろう。ささやかな出来事を掬い上げて詠んでいるところがいい。恵みのような「赤子の手」。
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切抜きの裏の意見が気にかかり切れ端探す中高生の 石巻市流留/大槻洋子
【評】新聞を切り抜いているのだろう。心にとまった記事を切り抜いた後、裏の記事を読んだ作者は中高生の意見が気にかかり、読みたくなって「切れ端」を探す。暮らしにあるこのような行為はとても大切。
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あの刻は遠くになりて赦す気に凪ぎて応える海はいま春 多賀城市八幡/佐藤久嘉
【評】「あの刻」とは東日本大震災発生時だと思う。十一年の年月が流れ「赦す」気持ちになったと詠む。海を見つめて語りかけながら、胸にはさまざまなことが甦っているにちがいない。そして、春は来るのだ。
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未来へと埋めしクロッカス惑ひなく黄色むらさき未来つかみぬ 石巻市開北/星ゆき
各局の切り口は皆違えどもニュースは戦事一色なりぬ 石巻市あゆみ野/日野信吾
十一年海に向かいて黙とうす知らずこぼれる涙二筋 石巻市蛇田/菅野勇
生きること供養すること養生も死ぬまで続く精一杯に 東松島市矢本/畑中勝治
声高に昭和の親父と見得切るも時代遅れと妻が一笑 石巻市不動町/新沼勝夫
夜半の嵐ふた時半の眠りさえしっかり起こす体内時計 石巻市須江/須藤壽子
春うらら陽炎揺れて田や畑(はた)の土の息吹き土は生きてる 石巻市桃生町/高橋冠
力づく鍬の打ちこみもう出来ぬ農歴生かす庭の菜園 石巻市桃生町/佐藤俊幸
ギシギシと破れトタンは軋めいて俄日和の春疾風かな 石巻市北村/中塩勝市
ウクライナこの世のニュースに涙浮く昭和ひと桁戦争末期 石巻市駅前北通り/津田調作
スーパーのいつも笑顔の島田さん今日もいるかとレジに目をやる 石巻市駅前北通り/庄司邦生
ガラケーの写真一枚消せぬまま十一日は又めぐり来ぬ 石巻市二子/北條孝子
春嵐家が軋みて泣くごとしとくに今夜は心細くて 石巻市流留/和泉すみ子
昨日まではきちんと出来たはずなのにこの日のドジに癇癪起こす 東松島市赤井/佐々木スヅ子