【石母田星人 選】
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たたかひの空を遥かに春田打つ 石巻市相野谷/山崎正子
【評】時事俳句の持続性は危うい。だがこの現実を詠まずにはいられない。素材は戦争を扱いながらも、どう詩的に昇華させるか。その例がこの句に読める。
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樹木医の指のごつごつ桜咲く 仙台市青葉区/狩野好子
【評】この樹木医は高齢者でベテラン。咲いた桜は老木。そう語っているのは「ごつごつ」という表現。診断や処置を施した太い指が老木を優しくなでる。
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大小のマスク無言や通学路 石巻市小船越/芳賀正利
【評】小学校の入学式だろう。親子そろって式場に向かう。子供時代の一大イベントをマスクで過ごす。何とも残念な世の中だ。「無言」に全てを語らせる。
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再建の鳥居に桜吹雪かな 石巻市吉野町/伊藤春夫
おにぎりに梅干一個春の山 石巻市蛇田/石の森市朗
末黒野の匂ひまとうて帰りをり 石巻市桃生町/西條弘子
列島のどこかで地震や梅真白 石巻市広渕/鹿野勝幸
春雷や煙管の筒の寅の絵図 石巻市中里/川下光子
波の音からめて南風走り来る 東松島市矢本/雫石昭一
気がつけば離れ離れに潮干狩 石巻市新館/高橋豊
バギーよりサクッと小走り春の虹 石巻市開北/星ゆき
卒業式長き袂を振つてみる 石巻市小船越/三浦ときわ
高台に球音高く海光る 多賀城市八幡/佐藤久嘉
ローカル線遅延の告ぐる初音かな 石巻市丸井戸/水上孝子
氷瀑やザイルの先に声かけて 石巻市流留/大槻洋子
津波地蔵春呼ぶための薄ずきん 石巻市渡波町/小林照子
教はりし鶯笛や父の声 石巻市門脇/佐々木一夫
花ふぶき泪橋より小塚原 石巻市駅前北通り/小野正雄
雛壇をゆらす地震の初節句 石巻市丸井戸/佐々木あい子
芽吹くもの抱きしめている春の土 東松島市矢本/菅原れい子
花嫁の下駄の爪革春の土 石巻市蛇田/高橋牛歩
快速が貨車を追い抜く春夕焼 石巻市駅前北通り/工藤久之
山桜孫のぬり絵の一ページ 石巻市二子/北みなみ
和太鼓のばちの強さや春の空 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美
船着場おこぼれ待つや子持猫 石巻市元倉/小山英智