コラム: patient は patient

 入院して「患者さま」と呼ばれるようになって5カ月になろうという頃。患者さまという呼び名には、いささかこそばゆい思いがありました。それとともに、なぜか patient(ペイシャント)という言葉を想起します。これは「患者」を意味する英語ですが、「忍耐強い」という形容詞でもあるのです。

 この言葉との出逢いは半世紀前にさかのぼります。高校3年の頃、師と仰ぐクリスチャンの英語の先生が繰り返し言っていたフレーズです。

 as patient as Job
(ヨブのように辛抱強い)

 ヨブは旧約聖書の『ヨブ記』の主人公。多くの苦難に遭うが最後に神の信仰にたち返る。

 その形容詞と冒頭の patient が偶然の一致として片付けてしまうわけにはいかない気がするのです。「患者さま」は我慢強いのではないか。 patient は patient では?

 案の定、patient はラテン語の patenteum(我慢強い)に由来し「病人」をも意味するようになったと記載されています<英語語源辞典 研究社>。

 もう一つ気になった言葉は「看護師」。たいへんお世話になりました。三度の食事の上げ下げ、着替えやトイレの見守り、と女性ならではの仕事ぶり。これは男には到底できない。

 米国で1960年代から70年代にかけて起こったポリティカル・コレクトネス( political correctness )論。人種・宗教・性別の違いによる差別を含まない中立的な表現を...。この影響が日本語にも及び、保母さんは保育士、保健婦は保健師のように新しい呼び名が生まれました。その代表格が「看護師」というわけです。英語は nurse(ナース)で済みます。「看護師」に統一せずに女性については「看護婦」という呼び名を残してもよかったのでは...。このたびの入院でこの思いを強くした次第です。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)