【石母田星人 選】
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上品山(じょうぼん)の寝釈迦となるや春夕焼 石巻市小船越/三浦ときわ
【評】この俳壇では、北上川と上品山を舞台にした投稿句が数多い。上品山はなだらかで美しく、眺望も抜群。四季を通して地元のみなさんに敬愛されていることがよく分かる。この句、その山が春の夕焼を背に寝釈迦のように見えたのだ。突然、目の前に出現した仏の姿。いつも眺めている山が祈りの対象と化した。上品は仏教用語。山の名前の由来は伝わっているが、夕焼での山容の印象も関係しているのかもしれない。
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朧夜に分け入るごとくハイビーム 石巻市流留/大槻洋子
【評】春は植物の蒸散が活発になることなどから、大気中の水蒸気量が増える。昼は霞(かすみ)、夜は朧(おぼろ)となる。朧の中の道を走る車。下五の「ハイビーム」の効果で未知の空間に飛び込んでいくような高揚感がある。
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盤上の旗指物に春の風 石巻市蛇田/高橋牛歩
【評】天童で開催された人間将棋。駒武者や満開の桜など見どころの多い中、旗指物を翻す春風に注目。穏やかな風も3年ぶりの熱戦を楽しんでいるようだ。
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花の駅すべり出したる銀河ゆき 石巻市小船越/芳賀正利
【評】満開の花に彩られたローカル線の小さな駅。動き出した車窓は桜を俯瞰し始める。「銀河ゆき」は賢治につながり、時空を超越したメルヘンにも誘う。
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長閑さや牛はゆつたり牧に啼く 石巻市吉野町/伊藤春夫
つくしんぼ昔戦火のありし野に 石巻市蛇田/石の森市朗
土佐水木ほろほろ夕日溜めてをり 石巻市桃生町/西條弘子
夕暮の明日は海原花筏 東松島市矢本/雫石昭一
さざなみは沼の微笑み残る雁 石巻市相野谷/山崎正子
花の城涌谷の伊達に花の雲 多賀城市八幡/佐藤久嘉
春昼やどつかと座る旅鞄 石巻市丸井戸/水上孝子
春潮や旧税関の青い屋根 石巻市中里/川下光子
八重桜足のはみ出る乳母車 仙台市青葉区/狩野好子
ほととぎす鳴いて薄暮の鍬洗う 東松島市矢本/菅原れい子
水底の草をゆらして春の水 石巻市門脇/佐々木一夫
咲くもよし散るも又よし花見酒 石巻市新館/高橋豊
葱の花母の生きがい畑仕事 石巻市元倉/小山英智
すかんぽと聞かば駈けくる畔小路 石巻市駅前北通り/津田調作
じっと見る桜の下で己れをば 石巻市中里/須藤清雄
芍薬と百合根が競い背比べ 石巻市水押/阿部磨