俳句(5/8掲載)

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【石母田星人 選】

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上品山(じょうぼん)の寝釈迦となるや春夕焼   石巻市小船越/三浦ときわ

【評】この俳壇では、北上川と上品山を舞台にした投稿句が数多い。上品山はなだらかで美しく、眺望も抜群。四季を通して地元のみなさんに敬愛されていることがよく分かる。この句、その山が春の夕焼を背に寝釈迦のように見えたのだ。突然、目の前に出現した仏の姿。いつも眺めている山が祈りの対象と化した。上品は仏教用語。山の名前の由来は伝わっているが、夕焼での山容の印象も関係しているのかもしれない。

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朧夜に分け入るごとくハイビーム   石巻市流留/大槻洋子

【評】春は植物の蒸散が活発になることなどから、大気中の水蒸気量が増える。昼は霞(かすみ)、夜は朧(おぼろ)となる。朧の中の道を走る車。下五の「ハイビーム」の効果で未知の空間に飛び込んでいくような高揚感がある。

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盤上の旗指物に春の風   石巻市蛇田/高橋牛歩

【評】天童で開催された人間将棋。駒武者や満開の桜など見どころの多い中、旗指物を翻す春風に注目。穏やかな風も3年ぶりの熱戦を楽しんでいるようだ。

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花の駅すべり出したる銀河ゆき   石巻市小船越/芳賀正利

【評】満開の花に彩られたローカル線の小さな駅。動き出した車窓は桜を俯瞰し始める。「銀河ゆき」は賢治につながり、時空を超越したメルヘンにも誘う。

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長閑さや牛はゆつたり牧に啼く   石巻市吉野町/伊藤春夫

つくしんぼ昔戦火のありし野に   石巻市蛇田/石の森市朗

土佐水木ほろほろ夕日溜めてをり   石巻市桃生町/西條弘子

夕暮の明日は海原花筏   東松島市矢本/雫石昭一

さざなみは沼の微笑み残る雁   石巻市相野谷/山崎正子

花の城涌谷の伊達に花の雲   多賀城市八幡/佐藤久嘉

春昼やどつかと座る旅鞄   石巻市丸井戸/水上孝子

春潮や旧税関の青い屋根   石巻市中里/川下光子

八重桜足のはみ出る乳母車   仙台市青葉区/狩野好子

ほととぎす鳴いて薄暮の鍬洗う   東松島市矢本/菅原れい子

水底の草をゆらして春の水   石巻市門脇/佐々木一夫

咲くもよし散るも又よし花見酒   石巻市新館/高橋豊

葱の花母の生きがい畑仕事   石巻市元倉/小山英智

すかんぽと聞かば駈けくる畔小路   石巻市駅前北通り/津田調作

じっと見る桜の下で己れをば   石巻市中里/須藤清雄

芍薬と百合根が競い背比べ   石巻市水押/阿部磨