コラム:レトルト食品

 親友の一人がにわかに「独身時代」に戻ることになった。奥さんが入院となったため。彼女は栄養学を修めたプロ級の才媛で、私が上京の折に厄介になると手際よく料理を作り持てなしてくれました。「いい奥さんを持って幸せだ」と感心する一方、友は仕事一筋で家事は大の苦手なようです。

 そんな彼にとって「レトルト食品」はまさに救いの神のような存在。「チンすればいいよ。レトルトカレーなど瞬く間にできちゃう」と得意顔です。

 さて、この「レトルト」、オランダ語由来なことはご存知でしょうか。「加圧加熱殺菌をする釜」が元々の意味。

 鎖国の江戸時代、通商は中国およびオランダとの間に限られ、オランダ語が日本に流入しました。たとえば、ガラス= glas(硝子)、半ドン= zondag(日曜日または休日)、デッキ= dek、レッテル= letter(札)、インキ= inkt。

 医療現場で今日でも用いられるオランダ語にはメス( mes )、モルヒネ( morfine )、リウマチ( rheumatisch )、カテーテル( katheter )などがあります。

 また、ゴムは天然ゴムの主産地であるインドネシアを植民地支配したオランダの言葉 gom に由来するらしい。英語で gum、フランス語で gomme、ドイツ語で gummi...。ヨーロッパに波及するにつれて、主だった西洋の言語に形を変えたと考えられます。

 ちなみに「レトルト食品」を英語で表すとすれば、例えば次のようになります。
 boil-in-the-bag food

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)