俳句(6/19掲載)

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【石母田星人 選】

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青田波仙北耕土ひと嘗めに   石巻市小船越/三浦ときわ

【評】風に波打つ青田を見ると「風の幅」を思う。田んぼ一枚をなでゆく風は見たことがない。この句の風はさらに大きい。耕土を慈しむような祈りの風だ。

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力まだ残して落つる椿かな   石巻市流留/大槻洋子

【評】椿の花が丸ごと落ち、地に咲いているように見えた。その姿を「力まだ残して」と表現。「力」の一文字だけで、落ち椿のあでやかさを強調している。

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父の日や節榑の手と酌み交す   東松島市あおい/大江和子

【評】父の日に集まって酒を飲んだのだろう。その輪の中心には父。節くれ立ってごつごつしている手の持ち主だ。この手に育てられたことを誇りに思う娘。

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この星を億年照らす夏の月   石巻市小船越/芳賀正利

初夏や木霊の宿る幹の艶   石巻市相野谷/山崎正子

厨口たかんなの香と土の香と   石巻市桃生町/西條弘子

生節や黒潮騒ぐ金華沖   石巻市門脇/佐々木一夫

嵩上げに立ちて海原夏帽子   東松島市矢本/雫石昭一

ボート漕ぐ部員の胸に青嵐   石巻市新館/高橋豊

仰ぎ見る新樹と語る少女像   石巻市丸井戸/水上孝子

夏の雨止むや悠悠ちぎれ雲   石巻市蛇田/高橋牛歩

あけ放つカフェの窓辺や今朝の夏   仙台市青葉区/狩野好子

残雪の斑わずかに牧ひらく   多賀城市八幡/佐藤久嘉

帰りゆく雁に夕日の柔らかし   石巻市蛇田/石の森市朗

木道は歩荷に譲る尾瀬ケ原   石巻市吉野町/伊藤春夫

まひまひや雲を浮かべて遊びをり   石巻市中里/川下光子

青葉冷え喪の服を掛け一人者   石巻市開北/星ゆき

山々の萌える緑に朝日輝る   石巻市水押/阿部磨

新緑やなじみの顔も清掃日   石巻市広渕/鹿野勝幸

椅子を出し微睡む庭や若葉風   石巻市元倉/小山英智

春の園心は軽く躍動す   東松島市矢本/奥田和衛

うす暗き水面の霧や蒼深む   石巻市駅前北通り/小野正雄

青梅のぽとりと落ちて友の逝く   石巻市駅前北通り/津田調作

家系図が絶える空家に花菫   石巻市渡波町/小林照子

句作りも生きる支えや筍も   石巻市中里/鈴木きえ