コラム:人の目を欺くもの

 英語を学び教える際に特に心がけていることがあります。「だから日本人は云々」と「外から」日本を悪く言うことです。外国と比較する「目」を育むことは外国語を学ぶ意義に他なりませんが、身も心もあちら側に置いての日本批判はどうかと思うのです。

 その象徴と言えるのが近頃の「マスク」論議でしょう。欧米では個人の判断で着用するのに対して、日本では政府が一定の基準を示す。日本人は何と主体性がない国民か、嘆かわしい...こういう議論には首をかしげてしまうのです。

 コロナ禍にどう対処するかが一番の問題でしょう。政府の見解の眼目はまさにここにあります。しかしマスクを外すかどうかを巡っていろいろと議論があるのも事実です。風邪や花粉症などに苦しむ人は別として、そもそも私たち日本人はマスク愛好者で国民的習慣と言えるでしょう。コロナ禍の前からマスクをして街を行き交う人がけっこういました。

 ところで、マスクの語源には諸説あり、ひとつはアラビア語の道化を意味する「マスカラ」( maskharah )。また古フランス語の mascurer(マスキュレ=黒く塗る)が語源ともされています。

 いずれにせよ mask の元々の意味は「人の目を欺くもの」。現代でも広く使われる mascara(マスカラ)、masquerade(マスカレード=仮面舞踏会)... mask と同じルーツの言葉ですが、どちらも人の目を欺いていると考えられます。

 コロナ禍からの脱却と一般の経済活動の両立を目指す政府。そこから噴出したマスクの着脱論議。政府の指針に従うかというと、そこは辺りの様子を伺ってという極めて日本的な反応が大勢を占めるのではないでしょうか。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)