俳句(6/5掲載)

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【石母田星人 選】

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滴りの音にひかれて足早に   仙台市青葉区/狩野好子

【評】山歩きの楽しみは、動植物との出合いや眺望など数多くある。「滴り」もそのひとつ。岩肌や苔を伝い落ちる水を見つけるとそれまでの疲れも忘れる。この句、眼前に滴りは無い。かすかに近くで音がするだけだ。それなのにもう清らかな水滴が見えている。手に受けて渇きを癒やす作者も見える。まだ見えない滴りの存在を「音」と表現。その結果、読み手の心の中には、かえってみずみずしさと涼感が広がった。

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山頭火の句碑に雑居寝のさくら蕊   石巻市相野谷/山崎正子

【評】石巻市の日和山公園の句碑だろうか。放浪の托鉢生活のなかで、独特な自由律俳句をつくった種田山頭火。彼の句碑の上にのった桜しべを「雑居寝」と捉えた。肩の力が抜けた形はまさに山頭火の姿だ。

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平凡の続く温みや莢ゑんどう   石巻市渡波町/小林照子

【評】当たり前の日常が突然破壊された時、普通の暮らしの大切さを改めて知る。サヤエンドウの美しい豆の並びと温もりに重ねて平凡のありがたさを思う。

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産土の鹿嶋ばやしや植田撫づ   石巻市広渕/鹿野勝幸

【評】江戸時代から伝わる鹿嶋ばやし。笛と太鼓が奏でるお囃子と華麗な花山車が練り歩く。一段落した植田の上を、産土の音が流れたように感じたのだ。

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花冷えに体そこそこ他人めく   東松島市矢本/菅原れい子

梅雨寒や北上河口橋幾つ   石巻市吉野町/伊藤春夫

筍飯笑顔をそえて橋こえて   石巻市流留/和泉すみ子

防潮堤聳えて見えず夏の海   石巻市蛇田/石の森市朗

まんまるの顔で生まるるしやぼん玉   石巻市小船越/芳賀正利

居心地の良き場所に座す糸繰草   石巻市丸井戸/水上孝子

葉ざくらや茶店でたのむナポリタン   石巻市中里/川下光子

葉桜のベンチにスマホ開きをり   東松島市矢本/雫石昭一

田植終ふ里山にあるなんでも屋   石巻市桃生町/西條弘子

夏場所やぐらりと散りぬ大いてふ   石巻市小船越/三浦ときわ

添削の字に秋田弁遠郭公   石巻市開北/星ゆき

例えれば起承転結花の道   多賀城市八幡/佐藤久嘉

稜線を眉月てらす緑の日   石巻市流留/大槻洋子

この山に牛の放牧夏来る   石巻市蛇田/高橋牛歩

桃色に牡丹散らして艶夜かな   石巻市門脇/佐々木一夫

夏近し窯場の熱気収まらず   石巻市新館/高橋豊