コラム:弱き者、汝の名は?

 最近よく見かけるようになった「フレイル」。この言葉との出逢いは入院中にさかのぼります。何をするのも面倒、歩く速度が低下、転倒して打撲や骨折をする可能性が大いにある...このようなことを訴える人が、自分も含めて周囲にずいぶんいるのです。いずれも70歳を超える高齢者。ひと昔前だったら「年だから」で済ませたものの、今は違う。「加齢により心身が老い衰えた状態」をフレイルと言うのだと知りました。英語の形容詞 frail から来ている言葉です。

 英語の frailty(フレイルティ=弱さ)を想起します。" Frailty, thy name is woman."「弱き者よ、汝の名は女なり」(坪内逍遥訳)。冒頭の独白の中でハムレットがつぶやく有名な台詞です。彼の母親は夫が死ぬと、すぐに父の弟(つまりハムレットの叔父)と再婚してしまう。それを嘆いての言葉です。「女は誘惑にもろいもの」というのがもとの意味。

 私は大学時代にシェイクスピアと出会ってからその偉大さに感服してきましたが、この台詞はその象徴とも言えるものです。 Woman is frail. ではなく Thy(=Your) name is woman. としているところに魅せられます。

 同じ英国人でも皮肉屋の劇作家G.B.Shaw(G.B.ショー)の手にかかると男性賛美になってしまいます。おなじみ My Fair Lady(マイ・フェア・レディ)の中の挿入歌" A Hymn to Him "「男性讃歌」の中の 一節です。

 " Women are irrational.
  Why can't a woman be more like a man?
  Men are so honest, so thoroughly square ..."
 「女は非合理的。
  なぜ女性は男性のようになれないのか。
  男は真正直で全く非の打ちどころがない...」

 男女平等の現代です。もしかしたら男性の方が女性より frail かも。皆さんはどうお考えですか?

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)