【石母田星人 選】
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舞台ふむ金管の子や緑さす 石巻市開北/星ゆき
【評】コロナ禍で練習さえ難しくなった吹奏楽部。並々ならぬ努力でたどり着いた舞台。初夏の目覚めるような若葉の緑が、子どもたちの演奏を包み込む。
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鍬洗ふ水輪のめざす花菖蒲 石巻市小船越/三浦ときわ
【評】水辺で鍬を洗い始めると、水輪が広がって花菖蒲へと向かって行く。花に届くまでの一瞬の描写。一瞬即永遠の波紋の姿。「めざす」が詩語となった。
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常夏の香りのせてや波の音 東松島市矢本/雫石昭一
【評】波の音に感じた常夏の香り。どんな香りなのだろう。常に近くの浜に行き五感を磨いている作者。だからこそ鋭敏な感覚で捉えることができたのだ。
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流されし浜が店の名穴子焼く 石巻市相野谷/山崎正子
氷山の崩れるごとく散る牡丹 石巻市吉野町/伊藤春夫
かたつむり石灯籠のてつぺんに 石巻市小船越/芳賀正利
はせを道青き息吐く青蛙 石巻市桃生町/西條弘子
油照太陽掴むショベルカー 石巻市丸井戸/水上孝子
全集の活字小さし梅雨の闇 石巻市蛇田/高橋牛歩
瀬の音に調べ合せて河鹿かな 石巻市門脇/佐々木一夫
さくらんぼさんざめく葉に守られて 仙台市青葉区/狩野好子
女川へ列車一両雲の峰 石巻市流留/大槻洋子
夕焼けや景色変りて絶景に 東松島市矢本/奥田和衛
この星の混乱混迷夏の月 石巻市広渕/鹿野勝幸
お洒落してあをき白夜の石畳 石巻市中里/川下光子
虫籠のやっとの二匹逃しやり 多賀城市八幡/佐藤久嘉
水しぶきプール開きの子ら眩し 東松島市あおい/大江和子
摘草や母の目籠は今我が背 石巻市新館/高橋豊
中尊寺めざして行けば緑さす 東松島市矢本/菅原京子
浜昼顔かえらぬ人を咲いてまつ 東松島市矢本/菅原れい子
行事消え浴衣のそでも閉じたまま 石巻市桃生町/佐藤俊幸
梅雨寒や小首かしげて鷗鳴く 石巻市中里/須藤清雄
足元に来て灯を点す螢かな 石巻市元倉/小山英智
繁茂する庭木に涼風通り来ぬ 石巻市駅前北通り/津田調作
七変化きょうは薄紅あざやかに 石巻市三ツ股/浮津文好