コラム:アイドルを探して

 高校時代に倫理社会を担当されたN先生のことが思い出されます。先生はソクラテスに似た風貌で、熱心に哲学の講義をしてくださいました。高校生には哲学の何たるかは分かりませんでしたが、先生の話の中で今でも記憶に残っているのは「イドラ」です。

 人気者としての「アイドル」は英語の idol に由来します。これはギリシャ語の「エイドーロン」から派生していて、もともとの意味は「実体のない形」。これが「神の偶像」も指すようになったのです。

 時代はギリシャからローマへ。「エイドーロン」はラテン語に受け継がれました。先生はイギリスの哲学者、フランシス・ベーコン(1561-1626年)の話を繰り返ししてくださり、その中で「イドラ」が出てきたのです。この言葉はラテン語で偶像を意味し、英語の「アイドル」の語源でもあることを知った次第。

 idol は次のように用いられます。

 That singer is an idol among teenagers.
 あの歌手はティーンエージャーのアイドルです。

 My mother is my idol, and I aim to be like her.
 私の母は、理想であり目標です。

 高校時代の思い出をもう一つ。「アイドルを探せ」という歌が大ヒットしました。原題はフランス語で La plus belle pour aller danser(一番きれいになって踊りにいく)。これを歌い流行(はや)らせたシルヴィ・ヴァルタン( Sylvie Vartan、1944年~)が私たちの「アイドル」になったのです。

 最後に「アイドリング」。自動車のエンジンを始動させてアクセルを踏まずにおく状態のこと。こちらは同じ「アイドル」でも別の語です。綴りは idle 。「怠けている」「遊んでいる」という意味の英語で「エンジンが空回りしている」という意味合いがあります。

 言葉って不思議で面白いですね。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)