俳句(8/14掲載)

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【石母田星人 選】

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引揚船の乾パンうれし終戦日   石巻市広渕/鹿野勝幸

【評】短い俳句は、多くのものが省略されている。読者は省略されたものを探し当てながら句を味わう。俳句を味わうということは、想像を膨らませるということなのだ。この句では容易にそれができなかった。引揚船の中で乾パンを食べるうれしさが、どれほどのものか、戦後生まれの私には全く想像できなかった。同じはがきには<母の亡き引き揚げなりし終戦日>の句もあった。作者の5歳の記憶だ。毎年、貴重な戦争体験をこうして詠んでもらっている。感謝しかない。

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花合歓の雨が汽笛をふくらます   石巻市相野谷/山崎正子

【評】いつも聞いている雨中の汽笛が、合歓の花をくぐり抜けて優しく膨らんで聞こえた。淡紅色の花が長いまつげで魔法をかけた。そんな想像も浮かぶ。

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天日干し梅もほっぺも赤くなり   石巻市門脇/佐々木一夫

【評】間隔を取って並べた梅を、一つ一つ裏返して満遍なく日を当てる。天日干しも面倒な作業。ここで省略されているのは、頑張ってお手伝いした女の子。

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盲目の弾むピアノや喜雨の中   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】「喜雨」は長い日照りが続いた干ばつ状態に降る雨。天才ピアニストの生演奏を聴いたのだろう。ホールを満たす音は正に喜雨のイメージだったのだ。

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ひもじさをかさね続けて終戦日   東松島市矢本/雫石昭一

神降りて来よ炎天の大欅   石巻市桃生町/西條弘子

海の日やシャッターに描く赤い蛸   石巻市中里/川下光子

糶人の笑顔は少し初秋刀魚   石巻市蛇田/石の森市朗

えぐられし杣道険し七変化   仙台市青葉区/狩野好子

心音に歩調を合せ青田道   石巻市小船越/芳賀正利

南風背中に受けて田巡りす   東松島市矢本/奥田和衛

単線の暗きカーブの今年竹   石巻市流留/大槻洋子

隈取の筋の深さや秋の夜   東松島市新東名/板垣美樹

ビアホール見知らぬひとの隣かな   石巻市蛇田/高橋牛歩

月山に挑む一家や玉の汗   石巻市吉野町/伊藤春夫

風見鶏微動だにせぬ夏至の朝   石巻市新館/高橋豊

一校に決め背水や立葵   石巻市開北/星ゆき

全国を結ぶ体操夏来たる   多賀城市八幡/佐藤久嘉

車窓から音さえ久し遠花火   東松島市あおい/大江和子

孫の手を引けばさざ波夏の浜   石巻市駅前北通り/津田調作