コラム:俳句を英語に

朝顔に釣瓶取られてもらい水

 加賀千代女の有名な句ですが、まず日本語の吟味から始めましょう。

 「つるべ」とは「釣瓶。縄や竿の先につけて井戸の水を汲み上げる桶(おけ)」(広辞苑・第7版)とあります。現代ではほとんど見かけなくなった物ですね。「水を汲み上げようと井戸端に行ったら、朝顔が水を汲み上げる桶にからまるように咲いていた。そのまま、そっとしておいてあげようと思い、水はもらうことにした」。このようなことを17音に詠んだのがこの句です。

 これを英語に直します。

 「朝顔」は morning glory 。「朝の輝き」という意味ですが夏にぴったりの呼称ですね。

 「朝顔が咲いた。釣瓶にからまるように」はどうするか。「釣瓶」は英語で a well bucket 。「朝顔は釣瓶に接触して咲いている」と解釈できますから前置詞 on を用いましょう。

 「もらい水」は「近所に水を分けてくれるよう頼んだ」ということなので、
 I asked my neighbor for some water.

 以上を組み合わせて、
 Morning glory blooming on the well bucket, I asked my neighbor for some water.
 ( Morning glory ... bucket は「朝顔が釣瓶に絡まって咲いているので」を意味する分詞構文)

 最近の haiku-boom も手伝って、有名な俳句はほとんど英訳されています。その1例を紹介しましょう。

The well bucket is taken by the morning glory.
Going to a neighbor for water.
    ― ブログ「リアルETの英語学習」

 ちなみに、朝顔は秋の季語と知って驚きました。俳句の専門家に尋ねたところ「季語は基本的に旧暦。新暦もありますが」という返答があり、納得した次第。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)