俳句(9/11掲載)

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【石母田星人 選】

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遠花火木立のかげに夜の闇   仙台市青葉区/狩野好子

【評】遠くの花火を言った後に、近くの木立の闇の存在に注目している。遠花火と近くの闇の相互作用、相乗効果によって一句の空間がぐんと広がっている。

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やり場なき怒りの中に水を打つ   石巻市流留/和泉すみ子

【評】喜怒哀楽は直に表現せず、感じ取ってもらうべきだ。だがここは直接が効果的。暑さのほかに山のようにある日常の怒りなのだ。「中に」の表現が巧み。

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床の間の水墨画より水の音   石巻市小船越/芳賀正利

【評】秋を身近に感じたことで生まれた水の音だ。有季を墨守する作者だが、たまに無季の句をつくる。季語に頼らずに季感を表そうとする試みの一句だ。

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語部の襟足伝ふ玉の汗   東松島市矢本/雫石昭一

老い半ば欲は静かに落し水   石巻市桃生町/佐藤俊幸

蝋涙の匂ひかすかに送り盆   石巻市小船越/三浦ときわ

水葵ゆふべの沼は星の壺   石巻市相野谷/山崎正子

秋天へ空気震せ航空祭   東松島市あおい/大江和子

できぬできぬと弱音吐いても月は味方   石巻市渡波町/小林照子

かなかなに急かされてゐる畑仕事   東松島市矢本/菅原れい子

戦なき刻を次代へ終戦日   石巻市広渕/鹿野勝幸

忘草年経るごとに濃くなりて   石巻市門脇/佐々木一夫

錠剤の口に残れる夏の月   石巻市中里/川下光子

リハビリを終へて家路や秋扇   石巻市元倉/小山英智

秋澄めば空に触れたき電波塔   石巻市流留/大槻洋子

熟睡に体力が要る熱帯夜   石巻市開北/星ゆき

残業の夫の靴音星月夜   東松島市あおい/下山慶子

逢んとて車走らす星月夜   石巻市蛇田/高橋牛歩

送り火の大の字となる午睡かな   多賀城市八幡/佐藤久嘉

今朝の秋飛行機雲の棚引いて   石巻市新館/高橋豊

紅の旗白河越えし秋の天   石巻市丸井戸/水上孝子

新涼の関越えて来る優勝旗   石巻市桃生町/西條弘子

雲の峰夕日に染まりてパラダイス   東松島市矢本/奥田和衛

お茶の間に桔梗二度目の開花待ち   石巻市水押/阿部磨

秋刀魚来た高値の札を身に背負い   石巻市駅前北通り/津田調作