短歌(9/18掲載)

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【斉藤 梢 選】

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交差路の造花は美(は)しく替へられてヤクルトひとつ地蔵にお盆   石巻市開北/星ゆき

【評】交差路にあるお地蔵さまに心をとめる作者。よく通る道なのだろうか。造花が替えられていることに気づく。お地蔵さまは、人々を守り、地域を守る役割を担っていることが多いが、この時、作者が目にしたお地蔵さまは、供養のためにそこにあるのだろう。「ヤクルトひとつ」という言葉により、供えた人のことを思う。お盆ゆえの悼む心と祈りがこの一首の中にはあり、造花の美しさが悲しい。こうして詠むことも供養のひとつとなるのかもしれない。

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老い妻は布海苔を摘みて帰り来る起居するたびの磯の香ほのか   女川町/阿部重夫

【評】この日、妻は磯の香を纏って帰って来た。家の中で感じる磯の香に、布海苔を摘む妻の様子を思っている作者か。鋭敏な感覚で捉えた四句の「起居するたびの」が印象的。布海苔そのものを詠むのではなく、その香の漂いを生き生きと表現していて、読者にも届くその香。日常生活の中にも、このように詠み残こしたい一日がある。

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行き詰まる脳にミントの喝いれてあとひと踏ん張りクラフト作業   石巻市流留/大槻洋子

【評】手作業で何かを作っている時の「あとひと踏ん張り」。「行き詰まる」とあるので、根気のいる作業なのだろう。自身を励ますような「ミントの喝」がとても効いている。さて、「喝」の効き目は。

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庭隅の姉妹のようなトマト二個赤く寄り添い今日の主役に   石巻市錦町/山内くに子

【評】「姉妹のような」という見立てがいい。トマトの実りの存在を「今日の主役」とする心持ち。庭のトマトを見て、その寄り添う赤を心に置く作者。身のめぐりにある物に向けられる眼差しがやさしい。

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背開きの干し鰺朝の膳に焼く子ははや気付く我が手造りを   石巻市羽黒町/松村千枝子

盆の入り真菰を編めば目に浮かぶ昔遊びしザリガニつりを   石巻市須江/須藤壽子

ひたすらに泥をかき出すボランティア若かったなら跳んで行きたい   石巻市泉町/佐藤うらら

外国の孫息災か預かりし竜胆の藍ほどけゆく朝   石巻市向陽町/後藤信子

根は土に枝は空へと役担う農夫の体新芽と共に   石巻市桃生町/佐藤俊幸

チチ、チチと虫の音引き継ぐ朝の道ひくく飛び交う秋茜添う   石巻市南中里/中山くに子

名も知らぬ野鳥の鳴き声心地よく起動助けて吾を鼓舞する   石巻市不動町/新沼勝夫

球児等のたゆまぬ努力実を結び白河越えを歴史にのこす   石巻市桃生町/千葉小夜子

骨休み外は恵みの雨なりて土は潤い苗は健やか   東松島市赤井/茄子川保弘

休肝日を頻りに求めし妻なれど諦めたるかこの頃言わず   石巻市駅前北通り/庄司邦生

山登りまだかまだかと山頂へわが人生は今何合目   東松島市赤井/佐々木スヅ子

お盆明け飾り静かに片付ける来年またねこっちも頑張る   東松島市矢本/畑中勝治

昨日は雨今日は晴れかと天(そら)仰ぐ唯それだけで飯食う吾れは   石巻市駅前北通り/津田調作

負けて泣き勝って又泣く甲子園悲喜こもごもの高校球児   石巻市北村/百々よし子