コラム:「国」を表す英語

 「国葬」が色々と論議を呼んでいる。戦前の記録映画で山本五十六元帥の国葬の模様を伝えるものを見た。大勢の人々が沿道から見守る中、白い棺が静々と進む。暗い時代、官・軍主催の催しとはいえ、厳粛かつ荘厳なものである。

 さて、「国葬」を英語でどう言うかと和英辞典をめくった。 state [ national ] funeral (新和英大辞典・第五版)とある。

 「国」にあたる英語で最初に習ったのは country と記憶している。 state と country 、そして nation (← national )。その違いは何であろうか。

 country でいささか面食らったのは「イソップ童話」が教科書に出てきた時だ。「田舎のねずみと都会のねずみ」の「田舎のねずみ」を country mouse と言う。 country を「国」とばかり思っていたのが、ここで見事に覆った。

 さらに、「アメリカ合衆国」は United States of America で「合衆」つまり人々ではなく、50もの state 「州」の集合体であることが分かった。しかも、その「州」は独立性を保ちつつ中央政府とは一線を画す。また様々なことが州によって異なることを知った。「アメリカ合州国」とするのが原語に忠実ではなかろうかと思う。

 UNの略語で知られる国際連合はどうだろう。正式名称は United Nations であり、 nation が統合したものである。この場合の「国」は「国民」の集合体ではなかろうか。

 以上から「国」の諸相が見えてくるようだ。田園も含めて「土地」に重きを置いた場合は country 、「国民」を主に考えた場合は nation 、そして行政区域としての「国」は state と言うのではないか。

 このたびの「国葬」は行政府としての「国」が企画し実行するものである。「国民」が悲しみ霊よ安かれと願う National Funeral はしょせん無理なことだろうか。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)