コラム:二つの若者ことば

 「エモい」「チルい」...最近、ふとしたことからこれら二つの言葉と出会いました。

 20数年前「ナウい」という言葉が流行った時、「これは考え方によっては英語教育の一つの成果でなかろうか」と思ったしだい。ご存知のとおり now(ナウ)は「今」を表す英語。そんなに初級の語彙に属するものではありません。それが日本語のごとく定着し使われているのです。日本語は漢字をはじめ数多くの外来語を取り入れて今日に至る現実があります。そこに英語教育が一役買っているように思えるのです。

 「エモい」...感情を揺さぶられるような場面や一言で表現できない心情を表す際に幅広く用いられます。「懐かしい」「感傷的」「ノスタルジック」などの意味を込めて、「夕暮れ時、オレンジ色に染まった海岸の景色がエモい」といったように。「感情的な、情緒的な」を表す英語の emotional(エモーショナル)が由来となっているのです。

 私は自他ともに認める emotional な人間、 an emotional person(感情的な、情にもろい人)。通訳の仕事で付き合っていた英国人から、 You tend to be[get] emotional.「君は情に動かされやすい」と度々言われたことを思い出します。

 「チルい」とは、リラックスした落ち着いた様子を指す言葉。「チルい曲」など気持ちを穏やかにさせる場所や音楽などに使われる。元来、 chill には冷たさなどの意味があるようです。

 僕の数少ない英語の持ち歌「 I Left My Heart in San Francisco」(邦題「思い出のサンフランシスコ」)。その中に chill を用いた一節があります。

 The morning fog may chill the air ... I don't care !
 朝の霧が空気を冷やすかも知れない...気にしないよ

 冷蔵庫に「チルド」という機能がついた時、僕は不思議でしょうがなかった記憶があります。冷凍と冷蔵の区別がつかなかったのです。

 ともあれ、 emotion や chill といった英語に由来する言葉が特に若い世代の間でごく自然に使われている現実には驚かされます。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)