俳句(10/23掲載)

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【石母田星人 選】

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秋天に鯨潮吹く大壁画   石巻市中里/上野空

【評】空飛ぶ鯨を中心に未来の石巻を描いた壁画。上五「秋天に」が巧み。読む者の意識を、壁画の上に広がる秋の空へ運ぶ。読者はその空間で詩に出合う。

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捨案山子戦火のやうな茜雲   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】台風の前後、朝夕の雲が異常に赤く染まった日があった。捨てられていた案山子にも赤が及んだ。その光景の向こうから戦火という言葉がやってきた。

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奥深き豪農の門萩のぞく   石巻市駅前北通り/小野正雄

【評】豪農の屋敷。邸内はとても広く、門を入ると庭園なのかもしれない。萩の花がのぞく。なぜか門の中に咲く花には、萩特有の地味で清楚な風情がない。

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雲ひとつ無き秋天に柱立つ   石巻市小船越/芳賀正利

刈り残す田が少しあり雁の声   石巻市相野谷/山崎正子

白菊の光の国の丸さかな   東松島市新東名/板垣美樹

とんぼうの集まるところ屋敷神   石巻市桃生町/西條弘子

紅蓮の菓子やはらかき島の秋   石巻市小船越/三浦ときわ

さやさやと虎毛の山は草紅葉   石巻市流留/大槻洋子

秋しぐれ煮炊きの匂ふ水揚船   石巻市中里/佐藤いさを

園児らの遠のく声やコスモス園   石巻市中里/川下光子

天の川ぶなの梢の風にゆれ   仙台市青葉区/狩野好子

月白を纏ふ姿の青児の絵   石巻市丸井戸/水上孝子

名月や節榑指の合はす先   東松島市矢本/雫石昭一

まん丸に月麗しく八十路かな   石巻市門脇/佐々木一夫

水澄めり北上川の七ツ石   石巻市蛇田/高橋牛歩

前触れに帰る海猫あり大漁船   石巻市吉野町/伊藤春夫

何度でもネジ巻き直す村芝居   石巻市桃生町/佐藤俊幸

荒れ地にも簪のごとひがんばな   石巻市広渕/鹿野勝幸

裏庭に籾殻を焼く冬隣   石巻市新館/高橋豊

杖の歩とあわせる歩幅満月光   石巻市開北/星ゆき

秋刀魚焼く煙に浮かぶ郷の浜   石巻市駅前北通り/津田調作

寝返れば軋む寝台長き夜   石巻市元倉/小山英智

橋脚に潮の干満鯊日和   東松島市あおい/下山慶子

孫つれてすすき手招く河川敷   石巻市須江/田代文男