短歌(10/30掲載)

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【斉藤 梢 選】

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庭栗の渋皮煮とて届きけり息(こ)の心根が喉(のんど)にしみる   石巻市南中里/中山くに子

【評】みのりの季節の秋。栗の渋皮煮が子より届き、作者はそれをしみじみと味わっている。庭の栗の実を、丁寧に渋皮煮にして送ってくれる子の気持ちがうれしい。栗のおいしさを言わずに、下の句のような表現にしているところが、この一首に惹かれるゆえんである。「心根」という言葉がとてもあたたかい。今年の秋を感じながら渋皮煮を食べるひとときが、作者にはある。ひとつの栗にあるひとつの命をいただく時の「喉(のんど)にしみる」という生の実感はかけがえのないもの。秋の暮らしを詠む一首。

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秋風が熱燗旨いと耳元に素直に頂く今宵は二合   石巻市蛇田/菅野勇

【評】いつのまにか熱燗が旨い季節になった。秋の風がささやく言葉を素直に受け取りつつ、酒を飲む宵。
その雰囲気が伝わってくる詠みぶりが魅力で、熱燗の旨さをも想像してしまう。秋には秋の酒の味わい方があるだろう。「今宵は二合」という結句がいい。風が伝える秋の風情を、作者は知っている。

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計画の半分も出来ぬ草取りを「それが老いよ」と友は笑いぬ   石巻市羽黒町/松村千枝子

【評】今日はここまでと決めて草を取る作者。それなのに、「計画の半分も出来ぬ」という現実。出来ると思ったことが出来ないことへの友の一言の「それが老いよ」。言われれば頷くしかないのだろうか。複雑な心境が表現されていて、<老い>を見つめている一首。

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散る落葉風に吹かれて天に舞う行く先知れぬ旅は吾にも   石巻市不動町/新沼勝夫

【評】散りゆく落葉を描写している歌かと読みすすむと、結句の「旅は吾にも」で、自らの生に思いを寄せている一首だとわかる。詩情があって、余情もある。

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初冠雪北の国から雪便り気節は忘れず静かに動く   東松島市矢本/畑中勝治

人間(ひと)はなぜかくも愚かか幾たびも悲惨な戦くり返したり   石巻市駅前北通り/庄司邦生

これという句読点もないままにいつしか後期高齢者になる   石巻市あゆみ野/日野信吾

昼さがり立町通りを行き交うは伴侶を探す秋茜たち   石巻市駅前北通り/工藤幸子

幼き日鯨祭りの思い出は父の笑顔と御神酒の匂い   東松島市矢本/高平但

落ち葉掃く繰り返してはその都度に明日からの景変わる気がする   石巻市湊東/三條順子

竹筒にチョンと顔出す青蛙のここの彼方に戦はやまず   石巻市開北/星ゆき

木に学ぶ野菜に学ぶ一本道身軽一番ひたすら生きる   石巻市桃生町/佐藤俊幸

ながながとライン送ればにっこりと娘(こ)によく似てる絵文字がひとつ   石巻市流留/和泉すみ子

遺影見て仏壇拝む受験子の後(うしろ)で合掌希望叶えてと   東松島市赤井/佐々木スヅ子

赤き色持ちて咲きたる彼岸花何を語るや老いたる我に   石巻市駅前北通り/津田調作

幼子の行方不明のニュースには願い叶わず心痛むる   石巻市水押/佐藤洋子

草引きて汗ばみし身の午後三時一人のお茶の味気なさしる   石巻市桃生町/千葉小夜子

栗ごはん食めば想ほゆ栗の木は故郷の山の父母眠る地に   石巻市門脇/佐々木一夫