俳句(11/6掲載)

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【石母田星人 選】

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平穏の中に顔出す断腸花   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】秋海棠の別名断腸花に思いを乗せた。中国の伝説には、引き離された人を思う断腸の涙が薄桃色の花になったとある。震災で失ったあの笑顔が浮かぶ。

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鰯雲桶屋は足で箍を締め   石巻市吉野町/伊藤春夫

【評】鰯雲と、足を手のように使う器用な桶職人の熟練の業。遠近と静動の対比の構図。桶屋や箍という句材からか、比喩的な俳趣も覗けるようで面白い。

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秋風のついて来さうな靴貰ふ   石巻市相野谷/山崎正子

【評】喜怒哀楽を直接言わないのが俳句。ここでは「秋風のついて来さうな靴」に感情を乗せた。想像は早くも、おろしたての靴で踏み出す朝に及んでいる。

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電線と電波ひとのみ葛嵐   石巻市開北/星ゆき

【評】葛は強い。壁だろうが電柱だろうが、つるで這いのぼる。葉の表は緑で裏は白。微風でも全体が裏返り白く変身。電波を吞み込んでも不思議ではない。

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国鉄の硬券切符竈猫   東松島市新東名/板垣美樹

【評】硬券とは厚い紙の切符。現役もあると聞く。思いがけず出てきた硬券。その手触りから暖を取った待合のストーブやそばにいた猫の姿を思い出した。

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常長像つるべ落しの日を纏ひ   石巻市中里/佐藤いさを

黄の蝶の石蕗の花より生まれけり   石巻市蛇田/石の森市朗

屋台の灯こぼるる路地の時雨かな   東松島市矢本/雫石昭一

松茸の香をふんだんに祝膳   石巻市桃生町/西條弘子

街路はや銀杏もみぢの続くなり   石巻市蛇田/高橋牛歩

刈田打つ夕日鋤き込む耕耘機   石巻市小船越/芳賀正利

秋時雨教会堂の畳敷   石巻市中里/川下光子

羽後しぐれ駆け込む宿のランプの灯   石巻市小船越/三浦ときわ

秋風や畑の端の直売所   仙台市青葉区/狩野好子

夢深し銀河の果に溺れをり   石巻市門脇/佐々木一夫

降り霜に負けたふりして草起きる   多賀城市八幡/佐藤久嘉

限界の里それぞれに芋茎干す   石巻市新館/高橋豊

秋盛る港の祭り大漁旗   石巻市駅前北通り/津田調作

喪帰りの余白の時間秋の声   東松島市あおい/下山慶子

水晶の翅と目玉や夕とんぼ   東松島市矢本/菅原れい子

老二人珍問答の初炬燵   石巻市渡波町/小林照子