短歌(11/13掲載)

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【斉藤 梢 選】

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透きとほる風に銀色(しろがね)しならせてとんぼは野辺に秋放ちをり   石巻市開北/星ゆき

【評】感じることができたとき、歌が生まれるのかもしれない。観察眼が冴えている上の句。秋風の中を飛ぶとんぼの姿を「銀色(しろがね)しならせて」と表現する。この感じ方が優れていて、風と会話をしながら飛んでいるようにも思われる。そして、下の句の「秋放ちをり」という、感覚もまた、趣深い。とんぼが飛ぶことによって、野辺は秋になってゆく。季節感あるこの作品は、自分の感覚を大切にして、見て、感じて詠むことの大切さを伝えている。

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拉致されし子等を救うと家族会 直截なる語懸命なる語   石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】二十年前の九月、北朝鮮は日本人の拉致を認めて、五人の被害者が帰国した。しかし、今もなお安否がわからない被害者がいる。被害者の家族会が結成されて二十五年。帰国を願う切実な声を聞いて、この一首が成ったのだと思う。他者の言葉に心を寄せて詠んだ作品は、それを読む人の心をも動かす。下の句がずっしりと現実を示している。一刻も早い解決を祈る。

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昨夜(よべ)吹きし風に散りたる金木犀の花びら数多庭を彩る   石巻市駅前北通り/庄司邦生

【評】散った花びらが彩る庭。金木犀は、その香りを詠むことが多いが、この歌は「花びら」の在りようへの感慨を表している。定型という枠は、一枚の画布のよう。花の命の愛しく美しい終焉。

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お古着て残さず食べて近頃はわたくしなりのサステナブルと   石巻市流留/大槻洋子

【評】「持続可能な」という意味のサステナブル。服を長く大事に着て、食べ物も残さずに食べるという作者のサステナブル。豊かさを意識する、このような個人的な行為は貴い。「わたくしなり」に、信念がある。

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秋刀魚船着岸順に入札し岸に近づく船荒々し   女川町/阿部重夫

三色の風に揺れてるコスモスを花束にしてもらう喜び   石巻市水押/佐藤洋子

妻と居て他愛ない言葉も生きがいか朝に夕にと思う折りふし   石巻市駅前北通り/津田調作

世相をば炙(あぶ)り出すような夕映えもいとも短き神無月なり   石巻市湊東/三條順子

糾える縄の如しか捩摺や裏と表に花咲かせをり   石巻市門脇/佐々木一夫

校庭の隅に並んだいちょうの木ずっと昔の秋色黄色   石巻市流留/和泉すみ子

ひたすらに辿りし道も茜さしかよわき妻の支え頼りに   東松島市矢本/畑中勝治

年を経て役立つ事とて特に無く春に稔るを夢見て種蒔く   石巻市蛇田/菅野勇

長い航海(たび)出船の朝の娘達二人で縋る何かを悟り   石巻市水押/阿部磨

究めるを知らぬまま生き細長に畝を作りて大根植える   石巻市桃生町/佐藤俊幸

出港船風に吹かれて紙テープ船に巻きつき名残を惜しむ   東松島市矢本/高平但

白大豆ひとつ覚えの味つけに甘煮もありかと心の残る   石巻市須江/須藤壽子

蜘蛛の巣の造形見事只見とれ払い手出せぬ心の葛藤   石巻市不動町/新沼勝夫

真夜中にポタンと音す栗の実が瓦の屋根に秋深まりぬ   石巻市桃生町/千葉小夜子