俳句(12/4掲載)

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【石母田星人 選】


どの歌碑も海鳴り潜む小六月   石巻市相野谷/山崎正子

【評】啄木や茂吉の歌碑が建つ日和山。どの歌にも波や海が詠まれている。「海鳴り潜む」で碑に流れた時間を表現。歌碑の存在感を確かなものにしている。


北上川(きたかみ)にしぶき渦巻く冬の使者   石巻市水押/阿部磨

【評】北国から渡って来た白鳥か雁が、川面に舞い降りた景だろう。あえて「冬の使者」と鳥の名を省略したのなら、日高見国の姿を描いたのかもしれない。


冴わたる皆既月蝕祈りかな   仙台市青葉区/狩野好子

【評】皆既月蝕が終わり、赤銅色から白色に戻った月。月蝕の始まる前よりも月に冷たさを感じた作者。一切の不純物を除したような輝きに、祈りが見えた。


阿弖流為の叫ぶ声かも虎落笛   石巻市蛇田/高橋牛歩

枯蘆や千の騎馬隊疾走す   石巻市小船越/三浦ときわ

時雨すぎちさき片虹女川に   石巻市流留/大槻洋子

散髪に踏み出す先の初時雨   東松島市矢本/雫石昭一

暮色急沖にかたまる時雨雲   石巻市中里/佐藤いさを

牡丹焚く尺八の音のふくよかに   東松島市新東名/板垣美樹

白壁の夕日の温み秋あかね   石巻市蛇田/石の森市朗

秋天や廂の揃ふ宿場町   石巻市桃生町/西條弘子

どことなく冬の匂ひの風の来る   石巻市小船越/芳賀正利

あるじなき机に秋の灯をともす   東松島市矢本/菅原れい子

三味線の撥の強さや雪の声   石巻市丸井戸/水上孝子

霧襖霧より深き霧を見る   石巻市門脇/佐々木一夫

団地いまシベリア颪に固まりぬ   多賀城市八幡/佐藤久嘉

単純なレモンイエロー檸檬の実   石巻市中里/川下光子

孫ぬけし胡座にひとつそぞろ寒   石巻市開北/星ゆき

ひらがなの心地老人日向ぼこ   石巻市吉野町/伊藤春夫

種ひとつ愛しく思う日向ぼこ   石巻市桃生町/佐藤俊幸

神の留守汽車にゆられて湯屋めざす   石巻市新館/高橋豊

姪っ子と永遠の別れの秋の暮   石巻市元倉/小山英智

泡立草命脈宿り起立して   東松島市矢本/奥田和衛

洗ひ上ぐ桶の木目や冬隣   石巻市中里/上野空

ぽつねんと縁に座りて寒椿   石巻市丸井戸/佐々木あい子