【石母田星人 選】
どの歌碑も海鳴り潜む小六月 石巻市相野谷/山崎正子
【評】啄木や茂吉の歌碑が建つ日和山。どの歌にも波や海が詠まれている。「海鳴り潜む」で碑に流れた時間を表現。歌碑の存在感を確かなものにしている。
北上川(きたかみ)にしぶき渦巻く冬の使者 石巻市水押/阿部磨
【評】北国から渡って来た白鳥か雁が、川面に舞い降りた景だろう。あえて「冬の使者」と鳥の名を省略したのなら、日高見国の姿を描いたのかもしれない。
冴わたる皆既月蝕祈りかな 仙台市青葉区/狩野好子
【評】皆既月蝕が終わり、赤銅色から白色に戻った月。月蝕の始まる前よりも月に冷たさを感じた作者。一切の不純物を除したような輝きに、祈りが見えた。
阿弖流為の叫ぶ声かも虎落笛 石巻市蛇田/高橋牛歩
枯蘆や千の騎馬隊疾走す 石巻市小船越/三浦ときわ
時雨すぎちさき片虹女川に 石巻市流留/大槻洋子
散髪に踏み出す先の初時雨 東松島市矢本/雫石昭一
暮色急沖にかたまる時雨雲 石巻市中里/佐藤いさを
牡丹焚く尺八の音のふくよかに 東松島市新東名/板垣美樹
白壁の夕日の温み秋あかね 石巻市蛇田/石の森市朗
秋天や廂の揃ふ宿場町 石巻市桃生町/西條弘子
どことなく冬の匂ひの風の来る 石巻市小船越/芳賀正利
あるじなき机に秋の灯をともす 東松島市矢本/菅原れい子
三味線の撥の強さや雪の声 石巻市丸井戸/水上孝子
霧襖霧より深き霧を見る 石巻市門脇/佐々木一夫
団地いまシベリア颪に固まりぬ 多賀城市八幡/佐藤久嘉
単純なレモンイエロー檸檬の実 石巻市中里/川下光子
孫ぬけし胡座にひとつそぞろ寒 石巻市開北/星ゆき
ひらがなの心地老人日向ぼこ 石巻市吉野町/伊藤春夫
種ひとつ愛しく思う日向ぼこ 石巻市桃生町/佐藤俊幸
神の留守汽車にゆられて湯屋めざす 石巻市新館/高橋豊
姪っ子と永遠の別れの秋の暮 石巻市元倉/小山英智
泡立草命脈宿り起立して 東松島市矢本/奥田和衛
洗ひ上ぐ桶の木目や冬隣 石巻市中里/上野空
ぽつねんと縁に座りて寒椿 石巻市丸井戸/佐々木あい子