短歌(12/11掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【斉藤 梢 選】


雨樋にスズメ飛び来て遊んでる障子の影にそれを感じる   東松島市矢本/畑中勝治

【評】小さな生き物の存在を詠む。作者は実際にスズメを見て詠んでいるのではなく、障子の影によってスズメがそこにいることを知る。気配から感じ取っているかのようだ。「遊んでる」の表現が、この一首をほのかに明るくしていて、スズメの姿が想像できる。北原白秋はスズメが好きで、歌に多く詠んでいる。経済的にとても貧窮していた時も、庭に来るスズメに米を与えていた。スズメを見ることは、自分自身を見つめて識ることだったようで、小さい命を慈しんだ。作者もまた、スズメの命に心を寄せている。


微かなる無駄と思へる動きでもやがて波動となるかもしれず   石巻市流留/大槻洋子

【評】作者は、「やがて」という未来を見ている。今は目立たないささやかな行為であっても、それを続けることで、何かを動かす「波動」になると信じる。無駄と思える行為でも、その行為そのものは尊い。具体的にその「動き」を詠んではいないけれど、心持ちはよく伝わる。作者自身への言葉かもしれないし、誰かへのエールであるのかもしれない。


木枯しの吹く庭に咲く山茶花の一ひら二ひら愛しくて手に   石巻市桃生町/千葉小夜子

【評】寒い季節にも鮮やかに咲く山茶花。木枯しによって散ってしまった花びらの「一ひら二ひら」。作者はその花びらを手に取って、愛しんでいる。花と会話をしているようで、そのひとときは、なんだか暖かい。


生きている生きてやるぞと意気込みて持病なだめてゆるりと一歩   石巻市不動町/新沼勝夫

【評】詠むことで、生への意志を確かめているよう。声が聞こえるようなストレートな表現の上の句がいい。病を抱えながらも、一歩一歩を踏みしめる日々を残す。


海の彩短歌(いろうた)に流せば年月の浪のうねりに乗りたる如し   石巻市駅前北通り/津田調作

流木のイス二つ三つ震災館座して思うは津波の恐怖   石巻市渡波町/小林照子

錦木の紅(あか)い模様のちぎり絵を夜の北風壊し消し去る   東松島市赤井/茄子川保弘

虫の音も止み閑(しず)かなる晩秋の独りの夜は侘しさも増す   石巻市あゆみ野/日野信吾

きみのことわたしが動作真似すれば友の一人と犬は思うかな   石巻市湊東/三條順子

庭を向くソファーは今も子を思(も)ひて「どごさ行ってだ」と母の声する   石巻市開北/星ゆき

花のよな赤い柿の実守らんか枝にカラスの止まる夕暮   石巻市須江/須藤壽子

夕焼けに水音たてず川に添う白鳥赤く色づく波紋   石巻市桃生町/佐藤俊幸

ハラハラと未練断つがに散る紅葉われを誘うか視線の先に   石巻市南中里/中山くに子

風静かあけびの抜け殻ぶらぶらと鵯去りて秋暮れにけり   石巻市門脇/佐々木一夫

まんまるい友ゆ賜いしおはぎ食べ皆既月食の月を待ちおり   石巻市駅前北通り/庄司邦生

ポストなしコンビニもなき過疎の地に吾一番の年がしらなる   石巻市高木/鶴岡敏子

日めくりがどんどん薄くなって行く希望の年にカウントダウン   石巻市水押/佐藤洋子

年賀状いつもの枚数買いました安否確認させないために   東松島市赤井南/佐々木スヅ子