短歌(1/29掲載)

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【斉藤 梢 選】


友からの賀状読みつつ甦るいわゆる密のあの青い日々   東松島市赤井/佐々木スヅ子

【評】旧友からの年賀状を読むあらたまの年の始め。一年に一度交わす年賀状には友の添書きがあり、しみじみと懐かしい気持ちになる。甦るのは「青い日々」。青春または、若き日々、とせずに「青い日々」としたところに表現の工夫がある。昨年の夏の甲子園の優勝インタビューでの、仙台育英高校の須江監督の熱き言葉「青春って、すごく密なので」を心に置いての「密」だろう。友情がいまも続いていて、お互いの<あれから>を知り得る友の存在は、とても大切。「密」の日々は青かったと記憶を辿るのも、生あればこそ。


アルバムを繰(く)れば白黒がカラーへと約束もせぬ老いも足されて   石巻市開北/星ゆき

【評】自分史を辿るように、古いアルバムをめくってゆく作者。白黒の写真がカラーになり、時が流れたことを実感するひととき。「約束もせぬ老いも足されて」の下の句が、作者の正直な思いを伝える。抗うことができない「老い」が確かに「足されて」いて、今の自分がある。写真は、その日その時の姿や表情を残す。この一首もまた「老い」への気付きを残している。


夜中ふと目覚めて庭の輝きに雪かと見れば月耿耿と   東松島市矢本/畑中勝治

【評】作者が見たのは、黒と白の世界。この夜の月明りの美しさ。「雪かと見れば」が月の光の清らかなことを想像させる。魅了された「耿耿と」という月の印象を、定型に掬い上げて表現する姿勢がいい。


たまたまに冷雨降りいる冬至の日先ずは一首かはたまた柚子湯か   石巻市南中里/中山くに子

【評】冷たい雨が降る冬至の日、この時を詠み残そうか、それとも先ずは柚子湯に入ろうかと思案の作者。十二月二十二日の暮らしが見えてくる即詠の一首。


北国の凍土に添いて縄文人いのち温めて風土と生きた   多賀城市八幡/佐藤久嘉

ハクビシン藁鉢巻きの白菜に恐れを成して退散したり   東松島市矢本/奥田和衛

強い意志持ちたるごとく百合二本師走のひかり浴びて咲きたり   石巻市流留/大槻洋子

消火器の裏に溜まりしホコリにも一年の無事感謝の払い   石巻市桃生町/佐藤俊幸

妹の生(あ)れし日迎えはらから四人(よたり)後期高齢者となりにけり   石巻市駅前北通り/庄司邦生

補聴器に頼る我が身のいらだちにかける迷惑許し乞う日々   石巻市中里/佐藤勲

客の来て雪女なら怖いなとしんしんと夜牡蠣の手みやげ   石巻市渡波町/小林照子

感動の笑顔と涙走り抜く選手待ってるゴールのテープ   石巻市水押/佐藤洋子

何時までも一つのことに拘らずペースのんびり余生の日々は   石巻市あゆみ野/日野信吾

ガラス戸に粉雪舞うを確かめて北国の友に賀状したたむ   石巻市清水町/岡本信子

年明けを知らす太鼓に歓声が凍てる大地をとかすが如く   東松島市赤井/茄子川保弘

ももいろの透きとおる耳に聞こえくる春の響きかうさぎ跳び交う   石巻市湊東/三條順子

我が植えし幼稚園の松の木が子等を見守り五十年過ぐ   石巻市桃生町/千葉小夜子

大写しのユズルとショウヘイ壁に貼り怠けむとする吾(あ)への戒め   石巻市向陽町/後藤信子