【石母田星人 選】
雪は地に大地は雪に埋れゐる 石巻市小船越/芳賀正利
【評】広大な地面に雪が降り積もる景。独自性ある表現は強いインパクトを持つ。対象にそそぐ優しさがあり、雪と大地の静かな会話が聞こえてくるようだ。
初春や被災の浜の波静か 東松島市矢本/雫石昭一
【評】被災した浜で初春の波を見つめている作者。心情は吐露していない。だが「被災の浜の波」と景を語るだけで、読む者それぞれに強く訴えかけている。
菊日和まなこ澄みたる牛帰る 石巻市蛇田/石の森市朗
【評】牧場から戻ってきた牛。のんびりと過ごした牛はこれから出産の日を迎えるのだろう。菊の香染み通る日和が、穏やかなまなこの牛を包み込んでいる。
北国に生まれ星座を識らず老い 多賀城市八幡/佐藤久嘉
山巓を讃えるごとく冬銀河 石巻市流留/大槻洋子
日の箔の囲んでゐたる牡蠣筏 石巻市相野谷/山崎正子
じやんけんのかけ声響く冬夕焼 仙台市青葉区/狩野好子
田も畑も仕舞うてけふの懐手 石巻市桃生町/西條弘子
霜月や衣桁にかかる鮫小紋 石巻市中里/川下光子
猫車ひと夜の雪に埋れをり 石巻市吉野町/伊藤春夫
冬満月李白大人降臨す 石巻市中里/上野空
木枯や復興住宅駆け廻る 石巻市元倉/小山英智
梟の声の乱るるレスキュー車 石巻市中里/佐藤いさを
コロナ禍と戦乱続く去年今年 石巻市広渕/鹿野勝幸
幕降りて湧く人波や月氷る 石巻市丸井戸/水上孝子
ゆく秋や時空重なる地層見ゆ 石巻市駅前北通り/小野正雄
侘び寂びを語る大樹の落葉ふむ 東松島市矢本/菅原れい子
深夜までテレビ応援湯ざめかな 石巻市門脇/佐々木一夫
冬麗や梁吊り上ぐるクレーン車 石巻市新館/高橋豊
凍て庭をゆらし雀らパンの山 石巻市開北/星ゆき
年新た大国主の白うさぎ 石巻市蛇田/高橋牛歩
老の身に夢よ再び帰り花 石巻市中里/鈴木きえ
夕時雨虹を残して暮れ行けり 石巻市駅前北通り/津田調作
アスファルト雪に馴染まぬ轍かな 石巻市二子/北條孝子
雪も積み夜明けに貨車の到着す 石巻市駅前北通り/工藤久之