短歌(2/12掲載)

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【斉藤 梢 選】


うすき陽をたぐり集めて冬すみれ風とたはむれ己が色ともす   石巻市開北/星ゆき

【評】冬に咲いている花は、みんな一生懸命。寒さの中、その生を主張しているように咲いている姿に、心惹かれることがある。作者は、「冬すみれ」に出会い、その印象を一首におさめた。「陽をたぐり集めて」「風とたはむれ」ている小さな菫。心を寄せて花を見ると、その花もまた冬を精一杯に生きているのだと気づく。青紫のひと色を極めている「冬すみれ」の勁(つよ)さと美しさ。季語でもある「冬すみれ」を詠む作者の心にも、このひと色が灯っていることだろう。


思い出の心の弾む襷掛け家事をさがして幾度も掛ける   石巻市須江/須藤壽子

【評】懐かしい言葉でもある「襷掛け」。女性たちが、まだ和服を着ていた時代に、働きやすいように襷掛けをした。素早く襷掛けをして、「さあ」と家事を始めた昔のことを作者は思い出して、襷掛けをしてみる今。弾む心で、家事をする様子が想像できて、その心躍りが伝わってくる。「家事をさがして」が、生き生きとしていて、とてもいい。何色の襷なのだろうか。


ドラマ見て泣くドラマゆえ只泣ける容易く奇跡願ったりして   石巻市流留/大槻洋子

【評】ドラマの物語の世界に入り込んで、泣いている作者。「ドラマゆえ」に泣けるのであり、ドラマでの出来事だとわかっているのに、「只泣ける」のである。自身の心理をよく表現している「容易く」が秀。下の句に頷いてしまう。ドラマゆえに「奇跡」はあるかも。


サクサクと霜柱踏み歩く孫足元の音不思議と笑う   東松島市赤井/茄子川保弘

【評】歩くと生まれる「サクサク」の音を不思議だと言う、感性ゆたかなお孫さん。「足元の音」に耳をかたむける二人の時間が尊い。「笑う」が明るくて健やか。


新春の庭に歩を止めふと見れば早くも芽を出す福寿草七つ   石巻市丸井戸/高橋栄子

北西風(ならい)背に日和の山に立ち見れば田代郷島眠るが如し   石巻市駅前北通り/津田調作

凍てついた土を押しあげ若芽出す野草(くさ)の気迫に力を貰う   東松島市赤井/佐々木スヅ子

私には真夜中なのに電車行くまだ働いている人がいる   東松島市矢本/畑中勝治

晴れた日の昼急速に風いでて広き入江に潮霧はしる   女川町/阿部重夫

冬の午後路面で遊ぶ黒き鳥動き止まればそやつは枯葉   石巻市湊東/三條順子

立春の香りなつかし梅の木の鼓動かすかに雪をおとせり   石巻市丸井戸/佐々木あい子

身を屈め葉を巻き眠る岩ひばや苔むす岩は母のふところ   石巻市門脇/佐々木一夫

水道の水の若水汲みて湯を使い初めなるケトルが光る   石巻市羽黒町/松村千枝子

福豆を数えて笑まう孫娘に妻も娘も加わり笑う   東松島市矢本/高平但

青空にハートを描くインパルス散歩道から我は手を振る   石巻市駅前北通り/工藤幸子

裸木に告げて悔いなし四千歩「がんばりましたね」と温かき声   石巻市渡波町/小林照子

会話なき夫婦なれども重ねし日深きやさしさ深ききびしさ   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

今日もまた独りの長い長い夜小(ち)さき灯りに「おやすみ」をいふ   石巻市流留/和泉すみ子