【石母田星人 選】
器にあはせ形をかふる春の水 石巻市新館/高橋豊
【評】どんな器にでも、その形に合わせて納まってしまうのが水。山から海へ巡る流れが春水のイメージだが、生活の中で使う命の水も春の水に違いない。
縮緬の風呂敷に春つつみ来る 石巻市吉野町/伊藤春夫
【評】シボの凹凸が生む色彩としなやかな肌触り。そんな風呂敷に包まれた春とは何か。訪ねて来たのは春の女神佐保姫。街を彩る桜の花を運んで来たのだ。
あちこちに羽ばたきしきり帰る鳥 石巻市広渕/鹿野勝幸
【評】帰る鳥の羽ばたきはエネルギッシュ。渡って来た頃に比べて帰る頃の体は随分大きくなっている。日の長さを感じてそわそわと準備に入った鳥たちだ。
啓蟄や目高に童何を問ふ 石巻市小船越/芳賀正利
これはこれは吾にくださる紙雛 石巻市蛇田/高橋牛歩
早春の木々いつせいに声を出し 石巻市相野谷/山崎正子
声の限り俺はここだと枯野人 石巻市桃生町/佐藤俊幸
病窓に冬の北斗を探したる 石巻市流留/大槻洋子
春の朝窓の光をそつと拭き 東松島市矢本/雫石昭一
朝礼へ地下足袋とんと霜を踏み 多賀城市八幡/佐藤久嘉
水琴窟音色の澄みて雨水かな 仙台市青葉区/狩野好子
冬萌や根はがつちりと土を噛み 石巻市門脇/佐々木一夫
海猫の胸毛ふくらむ余寒かな 石巻市中里/佐藤いさを
建国の日や蘆原の風の音 石巻市桃生町/西條弘子
鶯や忍者のごとく影消せり 石巻市丸井戸/水上孝子
海の母未だ帰らず三月忌 石巻市蛇田/石の森市朗
釜神へ上げたてまつる鮭一尾 石巻市小船越/三浦ときわ
脳のひだつるりと伸びしつららかな 石巻市駅前北通り/小野正雄
白魚の甘きかおりをまといけり 東松島市新東名/板垣美樹
雪解けて流れ何処に七曲り 石巻市元倉/小山英智
高台の終の棲家や震災忌 石巻市小船越/堀込光子
春暁の月が残りし露天風呂 石巻市中里/鈴木登喜子
妹が作りし干支のお雛様 石巻市流留/和泉すみ子
海沿いを気動車一両春隣 石巻市駅前北通り/工藤久之
魚屋の軒より雫干鰈 東松島市あおい/下山慶子