俳句(3/5掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田星人 選】


置き去りの石臼ひとつ鳥帰る   石巻市相野谷/山崎正子

【評】石臼の上空を鳥が帰って行く。軽々と小さくなる鳥影と重量感のある石臼の存在。軽重の対比と遠近感から導かれる空間の大きさ。優れた構図の句。


濡れてより波をいとわず磯菜摘   石巻市中里/佐藤いさを

【評】近くの磯に海藻を見つけた。採って帰ろうと思い立つ。気をつけていたがぬれてしまう。その後は本気になって磯菜摘を続けた。あふれかえる春の光。


ややいびつのホットケーキや父子草   東松島市新東名/板垣美樹

【評】ホットケーキの形状を語っているだけのようだが季語父子草が想像を膨らませてくれる。父と子が懸命に作ってくれたものならば愛に満ちた味だろう。


追悼の一言一句春の雪   東松島市矢本/雫石昭一

慰霊碑の友の名光る春の雷   石巻市新館/高橋豊

献花台黙祷重き春の雪   東松島市あおい/大江和子

蜆舟北上川の闇を引く   石巻市吉野町/伊藤春夫

多喜二忌や不戦の誓ひ確かめて   石巻市広渕/鹿野勝幸

野仏の雪に埋もれし十符の里   多賀城市八幡/佐藤久嘉

邪気寄せぬ美しき刃紋の冴返る   石巻市丸井戸/水上孝子

ダムまでの長き坂道木の根明く   仙台市青葉区/狩野好子

春の空地べたで遊ぶ児の笑顔   石巻市小船越/芳賀正利

春しぐれ喜右衛門お節越えし山   石巻市蛇田/石の森市朗

猫柳サーモカメラの老婆かな   石巻市中里/川下光子

鮟鱇鍋肝の太きは親父かな   石巻市門脇/佐々木一夫

どつどつと切つて男の根深汁   石巻市小船越/三浦ときわ

小走りで今川焼を抱へ来る   石巻市桃生町/西條弘子

枯菊の魂ポキと折りにけり   石巻市開北/星ゆき

雪しまき時空こえたる通夜帰り   石巻市流留/大槻洋子

渡り終え礼する子等に春来る   石巻市元倉/小山英智

胸のうち消すことできぬ野火ありて   石巻市流留/和泉すみ子

レモンティー記憶とかして春を待つ   東松島市矢本/菅原京子

じつと待つ我慢の坂に梅つぼむ   石巻市中里/須藤清雄

春立つやパルプの煙横に靡き   石巻市三ツ股/浮津文好

さまざまな明るい色の花を待つ   石巻市渡波町/小林照子