俳句(4/30掲載)

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【石母田星人 選】


雉子のこゑ戻らぬものを呼んでゐる   石巻市相野谷/山崎正子

【評】十三回忌の空を震わせるように雉子が鳴く。甲高い声は「戻らぬものを呼んでゐる」のだという。魂を引き裂くような慟哭(どうこく)が感じられる追悼の一句。


補聴器の春の波音うれしがり   石巻市中里/川下光子

【評】喜怒哀楽をじかに言わないのが俳句。そこで代わりに補聴器に喜んでもらったのだ。描写の工夫が成功。初めて使ってみた補聴器なのかもしれない。


山桜放流予告の鳴子ダム   石巻市桃生町/西條弘子

【評】今年は雪解けが早い。例年、大型連休の頃に行われていた鳴子ダムの放流も前倒しされた。早まる予感からか「予告」情報に網を張っていたのだろう。


遠櫻ことんことんと杖ついて   石巻市小船越/三浦ときわ

四月なり静かに木魚鳴り出して   石巻市広渕/鹿野勝幸

蜃気楼ぶつかりさうな舟と船   石巻市中里/佐藤いさを

小女子の声が聞きたや魚市場   石巻市門脇/佐々木一夫

潮騒を聞きたくなりてアサリ掻き   石巻市駅前北通り/津田調作

春泥や土を嗅ぎゐる老農夫   石巻市駅前北通り/小野正雄

仮の宿そつとぬけだす蝸牛   東松島市矢本/雫石昭一

追風を真艫(まとも)に受けて大漁旗   石巻市吉野町/伊藤春夫

黄水仙冷たき雨に立ち竦む   石巻市小船越/芳賀正利

ひと枝のこちら覗きて花の昼   石巻市丸井戸/水上孝子

荷台より楤の芽もらふひと掴み   石巻市蛇田/石の森市朗

さりげなく席をゆずるや鼓草   仙台市青葉区/狩野好子

真夜中の珈琲豆や蔦若葉   東松島市新東名/板垣美樹

初ざくら名刺出す手の背筋のび   東松島市あおい/大江和子

ニュータウンに気づき飛び来る燕かな   多賀城市八幡/佐藤久嘉

薄氷かき分け進むボートかな   石巻市新館/高橋豊

空の高さ日増しに高く巣立鳥   石巻市桃生町/佐藤俊幸

春の街はだかのくちびるまだ隠す   石巻市開北/ゆき

春の闇棘あることば飲みこんで   石巻市流留/和泉すみ子

背伸びして身に惜しみなく春夕日   石巻市元倉/小山英智

盃に花びら浮かべ手酌かな   石巻市三ツ股/浮津文好

晴れわたる空の眩しさ木五倍子咲く   東松島市あおい/下山慶子